優しい悪魔

  1/


「はぁ……っぁ……」
 閉め切った部屋の中に、甘く囁くような声が満ちていた。
 四畳半ほどの小さな部屋。ただ一つのドアには錠が下ろされ、厚いカーテンが外の陽光をさえぎっている。
 室内は闇に覆われていた。完全な闇ではない。中央に質素なベッドが設置してあり、その枕元に置かれた小さなロウソクの炎が、仄かに室内を照らしている。
 僅かな空気の乱れが、ロウソクの炎を揺らめかせる。
 その光が、ベッドの上で悶える裸体を闇から浮かび上がらせていた。
「んんっ……、ふぁ……」
 女である。歳は二十半ばといったところだろうか。腰のあたりまで伸ばしたしなやかな髪は、今はシーツの上に薄く広がっている。
 白く張りのある肌がほんのりと朱に染まってみえるのは、ロウソクの炎のせいだけではなかった。
 仰向けになった女の手が、自らの乳房と股間に伸びていた。細い指先が慣れた動きでそこをまさぐるたびに、女の濡れた唇からため息にも似た声が洩れる。
 細身な体に似つかわしくない豊満な胸の膨らみは、自らの手の中で自在にその形を変え、甘い刺激を脳髄にもたらしていく。
 柔らかな肉の中でそこだけ硬く尖った先端に、女の指が伸びた。
 親指と人差し指でつまむ。
「あぁっ……ん!」
 女の声が一層の艶を帯び、すらりと伸びた肢体がなまめかしくくねる。
 足の付け根に伸ばした指先が、肉の綻びに沿って往復する。そこは既に熱く潤み、指先に湿り気を伝えてくる。
「は……ぁっ、んんっ……」
 幾重にも折り重なった肉襞を、中指の腹で伸ばしていくようになぞってゆく。
 女の指先が、割れ目の上部にある肉の膨らみを捕らえた。
「ひぁっ……ぅ!」
 硬く充血したそれを、すり潰すようにこねる。女の体に電流が走った。
 たまらず、乳房を弄っていた手も足の間に滑り込ませる。
 揃えた指先が、淫猥に蠕動する肉の洞窟に潜り込んだ。
「あ……か、はっ……!」
 女の口が大きく開き、そこから愉悦が固まりとなって吐き出される。
 天井を見上げる瞳は官能に潤み、全身はうっすらと汗ばんでいた。
「はぁぁっ……ん!」
 かき混ぜるように指を動かす。たっぷりと濡れた柔肉が、中を前後する指に絡みつき淫らな音を奏でる。その音がさらに女の欲望を燃え上がらせ、意識を忘我へと導いていく。
「いいっ……、もっと……、もっとぉっ……!」
 女は腰を浮かせ、8の字を描くようにくねらせた。
 その動きにあわせ、内と外を刺激する指の動きは更に加速していく。
「ダメぇっ……足りないの……もっと、深くっ……欲しいっ……」
 身体を内から焼く欲情の炎は、とどまることを知らず勢いを増してゆく。
 女の手が投げ出されるようにベッドの下に伸びた。
 ――何か、何でもいい。この身体を奥まで貫いてくれるモノ。
 脱ぎ捨てられた服の山をまさぐり、その中に埋もれたカバンを手探りでまさぐる。今日の狩りにもって行ったものだ。大量に持ち帰った収集品の中には、おそらく目的に適うものがあるだろう。
 指先が硬い何かに触れた。撫でるようにしてその形を確かめる。
 程よい太さを持った、棒状の何か。
 ――これでいい。
 そう思い、唾液で濡らすのさえもどかしく、自らの濡れたつぼみに押し当てる。
「ふっ……ぁ……あぁああっ……ん!」
 一気に貫いた。
 頭の中で火花がばちばちと飛び散り、伸ばした足が震える。
「ひぁっ、あぁんっ! はぁぁっ!」
 そのまま動かした。
 ごつごつとしたそれは、指よりもずっと激しい刺激を送ってくる。女は夢中で動かし、自らの肉壷をかき回していく。
「はっ……ぁ! んぁぁっ……!」
 その動きと快感が最高潮に達しようとした時。
 激しい動きにそれは限界を迎え、乾いた音を残して無残に砕け折れた。
 女の目が驚愕に見開かれた。
「よう。あんたかい、俺を喚び出したのは」
 女の目は、突如自らの足の間に現れた、見知らぬ男へと向けられていた。


  2/


「へぇ、こいつぁ絶景だねぇ」
 しげしげと眺める男の視線に気付き、女は慌てて後ずさり、足を閉じた。
 かき抱くようにシーツで身体を隠す。
「な、何よあんたは! どっから入ってきたの!?」
 男はにやっと笑い、ちっちっと指を振った。
「初対面の相手にそんな言葉遣いはいけねえな、お嬢ちゃん。それに、質問は一つずつにしてもらおうか」
 小馬鹿にしたような口調ではあったが、どこか憎めない響きがあった。それは、この男の浮かべた人懐っこい笑みがそう思わせるのかもしれない。
「言うじゃない、女性の寝室に無断で忍び込んだ変質者のくせに」
 多少冷静さを取り戻したのか、女は男を睨みつけながら言った。しかし男は、その視線を意に介した様子もなく、やれやれと言った様子で手のひらを上に向けた。
「おいおい、誤解してるみたいだから言っとくけどよ、俺を呼んだのはあんたの方なんだぜ?」
「あたしが? 冗談――」
 そこまで言って、女ははっと口を閉じた。ベッドの上に、一本の折れた枝が見えた。さっきまで自慰に使っていたものだ。あれは――
「古木の、枝」
 恐る恐るそれの名前を呟く。
「ピンポーン、大当たりぃ」
 男が満面の笑みを浮かべる。
「そんなっ、でも、あれは……」
「モンスターを召喚するアイテムだってか? だったらほら、よく見てみろよ」
 そう言って、男はくるりと背を向けた。
「……ッ!」
 女は息を呑んだ。視線は男の背中――そこから生えた黒い翼と、尻尾に釘付けになっていた。
「まさか、魔族……」
「そのまさかさ。ほら、ちょっと髪の毛で隠れてるけど、角だってあるんだぜ」
 男は向き直り、髪の毛をかきわけるようにして自分の角を見せた。山羊の角にも似たそれは、作り物などではない証に、男の皮膚から直接生えていた。
「貴様ッ!」
 ベッドから跳ね起きようとした女の身体を、男が素早く押さえつけた。
「おーっと、何しようってんだい? 乱暴なことはよくねぇなぁ」
「おのれッ、離せ……!」
 全身の力を振り絞り抵抗するが、男の力はそれ以上に強かった。組み敷かれた腕はまるで万力で固定されたように、僅かも動かせなかった。
 男の顔が、すぐ目の前にあった。その顔に好色そうな笑みが浮かんでいる。それでも不快に思わせないほど、男の顔立ちは整っていた。
 一瞬どくんと高鳴った胸の鼓動を、女は必死に否定した。
 男が顔を近づけてきた。吐息が顔にかかる。
「――俺はインキュバス。女を抱くのが趣味の悪魔さ」
 甘く囁くような声が、女の耳に染み込んで来る。女の背筋がぞくりと震えた。
「特に、あんたみたいないい女が大好きでね」
 言いながら、インキュバスはふっと耳の穴に息を吹き込んだ。くすぐったさに女が肩をすくませる。
「誰がっ……あんたみたいな悪魔に……っ!」
「そういやまだ名前を聞いてなかったな。何ていうんだい?」
 呪詛にも似た女の呻きに耳も貸さず、インキュバスは訊ねた。
「ふんだ、教えるもんですか!」
 ぷいと背けた横顔を、相変わらずのにやけ顔で見つめるインキュバス。どうやら教えてくれるまでずっとこのままでいるつもりらしかった。
「……レオナよ」
 根負けしたように、女が自分の名を告げた。
「レオナ、か。へぇ、ふん……」
 その響きを噛み締めるように、インキュバスはぶつぶつと呟き、
「うん、いい名前だ。似合ってるぜ」
 そんなことを口にした。
「~~~~っ!」
 レオナは自分の顔がかぁっと赤くなるのを感じていた。今まで、面と向かってそんな台詞を言われたことなど一度もなかった。いや、もし言われたとしても、そのあまりの臭さにきっと噴き出してしまっただろう。
 だが目の前の悪魔は、本当に心からそう思っているようだった。
「――レオナ、お前を抱きたい」


  3/


 褒め言葉以上にストレートな言い方に、レオナは内心あきれ返った。同時に、自分がこの悪魔に僅かずつではあるが好感を持ちつつあることに気付いていた。
「嫌か? 俺に抱かれるの」
「当たり前でしょ! 誰があんたなんかにっ……!」
 湧き上がる感情を振り払うように、拒絶を口にする。
「そんなにしたければ、無理やりにでも犯せばいいじゃない!」
 そう言った途端、レオナの腕を押さえつけていた力が、ふっと緩んだ。
「――そっか」
 呟いたインキュバスの言葉は、予想外の響きを持っていた。
「な……何? どうしたの?」
 レオナは身体を起こし、インキュバスの顔を見た。
 インキュバスはどこか寂しそうな笑顔を浮かべ、
「俺さ、いやがる女を抱くのは好きじゃねぇんだ」
「――――」
 レオナは呆気に取られたように、淫魔らしからぬことを口にした目の前の男を見つめた。
「あーっ、参ったなぁ。どうすりゃいいんだろ」
 インキュバスは心底困ったように頭を掻いた。その様子がおかしくて、レオナは思わずぷっと噴き出した。
「なによ、あんた。いやがる女は抱けないって、ほんとに悪魔なの?」
 インキュバスは少しむっとした顔をして、
「おい、今の言葉、ちょっぴり傷ついたぜ」
「あ、ごめん。でもさ、あんたがあまりに悪魔っぽくないから、つい、ね」
 レオナが謝ると、インキュバスはふっと視線をそらし、
「……仲間にもよく言われたよ、それ」
 ぽつりと呟いた。
「あ、やっぱり」
 思わず本音を洩らしたレオナを、インキュバスがじろりと睨みつける。しかし、本気で怒っているようではなかった。レオナも、「おお怖っ」とおどけて見せる。
「……ぷっ」
「……あははは」
 しばらく見詰め合って、二人はどちらからともなく笑い合った。
「おかしいね、なんであたしたちこんな話してるんだろ」
「全くだ。ったく、興がそがれちまったぜ」
 室内に沈黙が降りた。だが、息苦しさはなかった。ベッドの端に腰掛けた二人の肩が、触れるか触れないかくらいの距離で静止していた。
「なぁ」
「ねぇ」
 二人が、同時に口を開いた。
「何だよ、ちゃんと言えよ」
「いーえ、そちらからどうぞ」
 ちぇっ、とインキュバスは頭を掻き、
「……あんた、聖職者だろ。それが何であんなことしてたんだ?」
 インキュバスの視線が、ベッドの下に脱ぎ捨てられた法衣を見つめていた。あんなことというのは、インキュバスが現れる時に耽っていた自慰のことだと、レオナは察した。
「――――」
 レオナは答えなかった。ロウソクの炎に照らされた横顔が、ふっと哀愁を帯びたように見えた。
「……悪かった、妙なこと聞いちまって」
「ううん、いいの」
 部屋の壁を見つめていたレオナの瞳が、遠くを見るように細められた。
「あなたの言うように、あたしは聖職者。でも、本当は聖職者である資格なんてないの」
 呟く言葉は、自分自身に語りかけているようでもあった。
「あたしたち聖職者は、身も心も清らかでなければならない。でも、あたしは昔、その禁を破ったの」
「――――」
 インキュバスは、じっとレオナの言葉に耳を傾けていた。
「ある人のことを好きになっちゃって、あたしはその人に身体を許したの。当然、教会にばれたら免職ものよ。でも、その時のあたしはそれでもいいと思った。全てを捨てても、その人と一緒になりたいって思った。でもね――」
 レオナはそこでふっと言葉を区切った。
「あたし、捨てられちゃったんだ。その人に」
 まるで他人ごとのように、レオナは言った。その口調が、かえって彼女の悲痛な思いを浮き彫りにしていた。
「残されたのは、あたしだけ。でも、元通りの生活になんて戻れなかった。あたしの身体は欲望を知ってしまった。悦びを覚えてしまった。だから、時々ああして自分を慰めてるの」


  4/


「そっか――」
 インキュバスは静かに呟いた。こういう時、何と声をかければいいのか彼には分からなかった。ただ、目の前で揺れるロウソクの炎を見つめていた。
「はい、あたしの話はここまで。次はあなたのこと聞かせて」
 すっきりした表情で、レオナがインキュバスに顔を向けた。
「え、お、俺? いや俺は別にそんな……」
 さっきまでとはうって変わったレオナの明るい声に、インキュバスは戸惑ったような声をあげた。
「そうねぇ、じゃああなたがこれまでに抱いた女の人の数とか」
「う……」
 じっと見つめるレオナの視線から逃れるように、インキュバスの視線が宙をさ迷う。
「気になるなー。いやがる女は抱かないんでしょ? じゃあ今まで何人がオーケーしてきたの?」
「そ、それはだな……」
「? ははーん」
 にやりとレオナの唇が持ち上がる。まるでネズミを追い詰めた猫のような目が、インキュバスの顔を見上げた。
「さてはあなた、まだドーテーなんでしょ?」
 びくり、とインキュバスの背中が震えた。
「なっ、何を根拠にそんなこと言いやがる!」
「あー、やっぱりそうかぁ。道理ですれた感じがしないと思った。『お前を抱きたい』なんて口説き文句、そうそう言えるもんじゃないもんね」
 うんうん、と勝手に頷くレオナ。
「て……てめぇっ! 馬鹿にするんじゃねぇ!」
 顔を真っ赤にして吠えるインキュバスの顔に、ふわりと何かが触れた。
 それはレオナの前髪だった。柔らかないい匂いが鼻をくすぐる。
 レオナが、インキュバスの厚い胸板に額を押し当てていた。
「……ねぇ、もう一度言ってくれる?」
「な、何をだよ」
 インキュバスはぴんと背筋を伸ばしたまま、そう訊ねた。
「さっきの、口説き文句」
 レオナが顔を上げた。二人の視線が、空中で絡み合う。
「――――」
「それとも、もう心変わりしちゃった?」
「いや、そんなことはねぇよ。今だって、その……」
「じゃあ聞かせて」
 ごくり、とインキュバスは唾を飲み込んだ。唇がやけに乾いている気がする。それを、湿らせるように何度か噛んだ。
「レオナ。お前を、抱きたい」
 ゆっくりと。心から、そう言った。
「――うん、いいよ」


  5/


「んっ……ふ……」
 重ね合わせた唇から、互いの舌を絡ませる音が響いてくる。ねっとりと動く舌先は、お互いの口内を貪るように深く潜り込み、溶け合った唾液が小さく水音を立てる。
「はぁ……、キスは?」
 唇を離し、レオナが訊ねる。
「いや、それも初めて……」
 照れているのか、ぶっきらぼうに答えるインキュバス。
「そう。にしては上手ね。やっぱり淫魔としての本能なのかしら」
「し、知るかよ、そんなこと」
 ぷいっと顔を背けたインキュバスが可愛くて、レオナは思わず顔をほころばせた。
「ね……ほら、触って」
 インキュバスの手をそっと握り、自分の胸に導く。指先が膨らみに触れた。初めて感じる柔らかさに、インキュバスは驚いたように手をひっこめた。
「ダメ、ちゃんとして」
「あ、ああ……」
 頷いて、今度は正面から乳房を握りこむ。
「んっ!」
 レオナの唇から、小さく声が洩れた。
「わ、悪りぃ、痛かったか?」
「ううん、逆よ。……気持ちよかったの」
「そうか、じゃあ、もっと触るぞ」
「うん……ふぁっ!」
 これも本能なのか、あるいは淫魔独特の魔力がそうさせるのか、インキュバスの指先は巧みに快感を紡ぎだしてゆく。
「は……ぁっ……んんっ……」
 インキュバスは乳房に吸い付き、スロープに沿って舌を這わせた。肌の上を動くその感触に、レオナの唇から甘い吐息が洩れる。
「ちゅ……きゅぷ……」
 舌先が先端の突起を捉えた。吸い込むように口に含み、舌で舐る。甘い痺れがレオナの身体を走り抜けた。
「んふ……くちゅ……れる……」
 唾液が乳首を濡らしてゆく。同時にインキュバスの指先がつぅっとレオナの腹部を滑り、足の間に潜り込んだ。
 指先が絡み合った肉の襞に触れた。
「はぁっ……ん!」
 快楽の泉を掘り起こすように、そうっと、しかし巧みに指先が蠢き、レオナは身体を震わせた。すぐに熱く潤んできた。さっき一度燃え上がった身体は、再び火がつくのも早い。
 つぷり、と指先が沈み込んだ。
「あっ……ふぁ……!」
 たまらず、レオナが声を絞り出す。
「レオナ……。レオナのここ、熱い……。それに、すごく濡れてる」
 中ほどまで沈めた指を、溢れる液体を掻き出すように動かしながら、インキュバスが耳元で囁いた。
「馬鹿ぁっ、そんなこと言わないのっ……」
 羞恥に真っ赤になりながら、しかし自らの身体の中に点った炎がさらに燃え盛ってゆくのを、レオナは感じていた。
 インキュバスの愛撫に翻弄されながら、レオナの手がまさぐるように動き、指先が硬いものに触れた。それを布越しに撫でる。
「あっ……んくっ!」
 今度は、インキュバスの唇から声が洩れた。指に伝わる感触に、それがびくびくと震えるのが分かった。
「ふふっ、あなたのだってもうこんなになってるじゃない」
「な、何を……ってめぇっ……」
 もどかしそうにズボンを脱ぎ捨てる。
「わ……」
 嘆息にも似た声がレオナの口から洩れた。インキュバスのそれははちきれんばかりに膨らみ、高々と天をさしていた。
 今度は直接、指が触れた。両手で包み込む。熱く、硬い。細い指先が繊細に動き、十本の指がそれぞれ違う圧力でそれを刺激していく。
「んんっ……ぁ……」
 インキュバスの肩が震え、荒い呼吸が肺から洩れる。それに呼応するように、レオナの中にも昂ぶってくるものがあった。
「んっ……ちゅぱ……」
 顔を近づけ、先端に唇を被せる。口付けするように何度も吸い付き、大きく口を開けてゆっくりと含んでいく。
「はふ……ん……ちゅ、れる……」
 口の中を満たす強張りに、舌を這わせる。さかんに溢れてくる唾液を塗りたくり、隅々まで嘗め回していく。
 たまらずインキュバスが腰を震わせた。口の中のものが前後に動き、口蓋を擦りあげる。
「んふっ……ぅ……はぁんっ……」
 口と舌での奉仕をしながら、レオナも小さく喘ぎ声を洩らした。興奮が身体を支配し、燃え盛る炎にあぶられた肉壷が、溢れんばかりに愛蜜を分泌していく。
「レオナっ、俺……もうっ、入れたい……」
 口を離す。たっぷりと唾液を絡ませた先端が、ロウソクの炎に濡れ光っていた。
 インキュバスはレオナの上に覆いかぶさるようにして、開かせた足の付け根にそそり立った先端を押し当てた。
「はっ……あ……あぁあんっ!」
 狭い肉の洞窟を押し開けて、インキュバスのものがレオナの中に侵入していく。代わりに押し出されるようにして、レオナの口から甘い吐息がこぼれた。
 濡れた肉襞が絡みつき、搾り取るように蠕動する。
「あっ……レオナの中、すげぇ……気持ちいいっ!」
 インキュバスはぐっと歯を噛み締め、腰を振るい始めた。
「はぁっ……ん! あたしも……気持ちっ……いいっ!」
 部屋を満たした薄闇の中、二人の発する吐息と、腰の打ち合わされる音が淫猥なリズムを刻んでゆく。
「あぁぁっ……ん……もっとぉっ! レオナの中っ……かき混ぜてっ……!」
「うおあぁぁっ……! くっ……ぅ!」
 太い肉棒が前後するたびに、ピンクの肉襞がめくれ上がり、再び押し込まれる。反り返った先端が膣壁を擦り上げ、レオナを快感の高みへと押し上げてゆく。
「んぁっ……あぁあっ! ダメっ……あたし……もうっ……!」
 レオナの腕がインキュバスの背に回され、ぎゅっと強く抱きしめられた。その身体が震えている。
 インキュバスも固くレオナを抱きしめた。肌に浮かんだ汗の玉が混ざり合い、二人の温度が一つに重なる。
「いくっ! いくぅっ! ふぁあああっ……!」
「うおっ! 俺もっ……出るっ! うぁああっ!」
 二人の身体が同時に跳ねた。電撃のような快感が背筋を駆け抜け、脳髄で破裂する。
「はぁぁあっ……ん! あぁっ……!」
「あぁあ……は……ぁっ」
 塊のような精液が、どくどくとレオナの中を満たしてゆく。ヒクヒクと震える膣内に最後の一滴まで注ぎ込み、インキュバスはもう一度強くレオナの身体を抱きしめた。
 繋がったまま、二人はしばらくそうして抱き合っていた。熱く火照った身体が、ゆっくりと冷えてゆく。心地よい気だるさが、二人を包んでいた。
「――なぁ」
 ふと、インキュバスが口を開いた。
「なに?」
「あのさ、俺、インキュバスって呼ばれてるけどよ、それは俺たち一族の名前でさ」
「うん」
「俺には、俺だけの名前があるんだよ」
 そこでインキュバスは言葉を切った。彼ら悪魔にとって、己の名を人間に明かすことは許されるはずのない禁忌である。その掟を破ったものは、もはや魔族の間で暮らしてゆくことはできない。
 だが――。
「レオナ、俺の名前は――」


  了