酔っぱらいセシルとトリスの話

「すみません、このサラシ、ちょっと私にはきついみたいで」
 ヒュッケバイン=トリスは、そう言って胸のサラシを解きはじめた。サラシは所々が破れ、ほつれが出ている。
 今さっきトリスが試着した時に、ふとした拍子で破れてしまったのである。
「あの、この破れちゃったのは、どうしたらいいですか?」
 サラシを解いたトリスが、おずおずとセシル=ディモンに訊ねた。
「うん? ああ、いいよ。適当に放り投げちゃって」
 セシルが答える。
「すみません、せっかく頂いたのに、ダメにしてしまって」
 申し訳なさそうに、トリスがぺこりとお辞儀をする。
「気にしなくていいよ。どうせあたしももう使ってなかったし、捨てるつもりだったんだからさ」
「でも、そういうわけには……。何か、お詫びをしないと」
「いーから、いーから。はい、ゴミ箱にポイしちゃって」
 ひらひらと手を振って、セシルが部屋の隅にあるダストボックスを指し示す。
「分かりました。では」
 と、トリスが背を向けたその瞬間、セシルの目がきらーんと光った。
「……えい」
「きゃぁっ!?」
 不意を突かれたトリスが、小さく悲鳴をあげる。
 上半身を露わにしたトリスに、セシルが後ろから抱きついていた。
 両腕を脇の下から体の前に回し、手のひらでトリスの胸の膨らみを包み込むように掴んでいる。
「うーん、この感触。トリス、あんたまた大きくなったでしょ」
 言いながら、セシルの指がぐにぐにとトリスの胸を揉む。
「セ、セシルさん? ちょっと、やめてくださいっ」
 トリスが身悶えする。
 しかし、セシルのの手を振りほどくことはできなかった。
 一般に、スナイパーはシーフより腕力で劣ることが多い。とはいえ、二人には年齢差がある。体格を比べれば、大人と子供のようなものだ。
「ふふふ、無駄よ。これは伝説のプロレスラー、アントキの猪木が用いたオッパイホールドという技なのよ。どんなに暴れても逃げることはできないわ」
「何を訳の分からないことを言ってるんですか……って、うわ、お酒の臭い!?」
 振り向こうとしたトリスが、セシルが吐く息のアルコール臭に、思わず顔を遠ざける。
「もしかしてセシルさん、酔ってるんじゃ……」
「失礼ねぇ、酔ってなんかないわよ。大体あの程度のお酒であたしが酔うとか酔わないとか、そんなヤワな飲み方してないし、そもそもあんなのただの水みたいなもんで」
 と、ジト目でセシルがぶつぶつと呟く。
 手はその間も、ノンストップで指先ウェーブ運動中だ。
「やっぱりどう見ても酔ってますって!」
「んんー、柔らかいわねぇ。まったく何をどうしたらこんなぷよんぷよんになるのかしら」
 今度は一転、にへらーとだらしない笑みを浮かべてトリスの胸をまさぐる。
「やぅっ……ちょ、セシルさんっ、ホントに……やめっ」
「んー? 可愛い反応だなぁ。ほれ、ここがええんか? ええのんか?」
「せ、セシルさんっ、オヤジ入ってますって!」
「あん? 誰が鉄板だってぇ?」
「そんなこと言ってないですー!」
「トリス、あんたさっき、お詫びになんでもしますって言ってたじゃない。なら大人しく揉まれなさい」
「お詫びしますとは言いましたけどっ、何でもするとは言ってな……」
「大丈夫、ほんの二時間半くらいでいいから」
「長いですって! ノーカット版のゴールデン洋画劇場レベルですって!」
「あーもう、いいなぁ、うらやましいなぁ。こうやって揉んでたらあたしのほうに移動しないかなぁ。吸い取るみたいにさぁ」
「無茶なこと言わないでくださいーっ!」


 結局、トリスが解放されたのは、セシルが完全に酔っぱらって寝入ってしまってからだったとか。


 その後。
「……どしたの、アルマ。やけに上機嫌だね」
「イレンドか。ふふふ、そら上機嫌にもなるわ。ええ写真が撮れたからな。これは銭になるで」
「はぁ?」