メイドでGO

 魔城グラストヘイム――
 暗黒の瘴気に覆われ、昼間でさえ宵の空気を漂わせるこの地は、まともな思考の人間ならば近寄ろうとさえ思わないであろう。
 それでもここを訪れようとする者は、物欲に目の眩んだ愚かな冒険者か、生に飽いた自殺志願者と相場は決まっている。
 だが、今日ここを訪れた男たちは、そのどちらとも異なっていた。
「行くぞ、狩の字」
「ああ、騎の字」
 互いに頷きあい、騎士団の重い扉を開ける。
 人とは思えぬ凄まじいオーラを纏った彼らは、何を望んでこの死地に踏み込むのか。
 その炯々と光る眼は、鋼よりなお硬い決意を物語っていた。
 騎士団の門をくぐった彼らを、出迎える影があった。
 影は二つ。
「――来たか、人間どもよ」
「残念だが、ここを通すわけにはいかぬ」
 そう言って立ちはだかったのは、グラストヘイムの守護者たる鎧の戦士――レイドリックとレイドリックアーチャーであった。
 手にした剣と矢が、男たちに向けられる。
 数多の冒険者を葬ってきた漆黒の刃が、壁に煌く蝋燭の光を受け、ぎらりと赤黒い光を放つ。
「死にたくなければ、このまま立ち去るが良い」
 だが、男達は怯む様子もなく、にやりと笑った。
「まぁ待てよ。今日はお前達に用があって来たわけじゃねぇんだ――」
「どういうことだ」
「こいつを見てみな」
 騎の字と呼ばれた男は、懐から何かを取り出した。
「ッ――!? それは、まさか――」
 レイドリック達の目の色が変わった。果たして彼らに目があるのかどうか定かではないが、確かに変わった。
「そう、そのまさかさ――」
 騎の字は、取り出した何かを再び大事そうに仕舞った。
「そういうわけだ。ここは通らせてもらうぜ」
 狩の字と呼ばれた男は、飄々とした口調でそう言うと、レイドリック達に向かって歩き出した。騎の字もそれに続く。
 まるで近所の公園に散歩にでも行くような、無造作な歩き方であった。
 だが、その隙だらけの男達を相手に、レイドリック達は攻撃を仕掛けることさえできなかった。
「――――」
 ただ無言で道を開けた。
 長年グラストヘイムを守護してきた屈強な鎧の戦士たちは、戦うことさえできぬまま、男達に屈したのである。
 通り過ぎる男達の背中を見送りながら、レイドリックは呟いた。
「なぁ、弓の。俺は負けたのか?」
「勝ち負けはこれから決まることだ。それより、我らも行くぞ」
「む――そうだな」
 そう言うと、二人の姿は闇に消えた。


 騎士団の奥深くに辿り着いた男達は、何かを探すようにきょろきょろと周囲を見渡した。
「居ないな」
「しっ、静かに――」
 狩の字が、唇に人差し指を当てながら呟いた。
 薄闇の中を、微かに聞こえてくる歌声があった。
 騎の字もそれに気付いたのだろう。男達は無言で頷きあった。
 足音を立てぬよう細心の注意を払いながら、男達は歌声のしてくる方へと進んでいった。
 声は、騎士団の片隅にある書棚のほうから聞こえてくるようであった。
 近づくにつれ、歌声はさらに鮮明になっていった。
「おっ掃除~おっ掃除~楽しいな~♪」
 男達は息を潜め、立ち並ぶ書棚の影から声の主を確かめた。
 メイド服に身を包んだ少女が、手にしたほうきでライドワードの背中をぽふぽふと叩きながら、やけに陽気な歌を口ずさんでいた。
(ターゲット確認。アリスたんだ)
(うむ。だが、ライドワードがちと邪魔だな)
(任せておけ)
 男達は小声で囁きあった。アリスもライドワードも、男達の存在には全く気付いていないらしい。
「もー、こんなに埃まみれになっちゃって」
 アリスはそう言いながら、隅々までライドワードの体を掃除していく。
 くすぐったいのか、はたまた照れているのか、ライドワードは頬を赤らめどこかニヤけたような顔をしていたが、正直不気味そのものにしか見えなかった。
「はい、綺麗になりました~」
 アリスがそう言った時、一条の矢が空気を裂いてライドワードを襲った。
「きゃっ!?」
 ライドワードを貫いた矢は、勢いを失うことなくそのまま壁に突き刺さった。
「むぐぐっ……!」
 壁面に縫い止められたライドワードが、そこから抜け出そうとじたばた体をくねらせた。だが深々と突き立てられた矢は、そう容易くは抜けそうになかった。
「よしっ、ナイスだ狩の字!」
 書棚の影から飛び出した男達を、アリスは驚きの目で見た。
「あ、あなた達は――!?」
「ふははは! 誰が呼んだか知らぬが、我らは萌人ブラザーズ!」
「そう! 我ら萌えに生き萌えに死ぬ者なり!」
 決めポーズを取りながら、高らかに名乗りを上げる男達。
「――はあ」
 アリスは一瞬呆気に取られたようにぽかんと口を開けたが、すぐさま気を取り直し、
「萌人だか何だか知らないけど、グラストヘイムを脅かす侵入者めっ! 立ち去りなさい!」
 凛然たる声でそう叫び、手にしたほうきを構えた。
「ふふん」
 騎の字は人差し指を立て、ちっちっと左右に振った。
「これを見ても、まだそんなことが言えるかな?」
「な、何を――!?」
 ただならぬ気配を感じたのか、じり、とアリスは一歩後ろに退った。
「くらえっ!」
 乾坤一擲、騎の字は懐から一枚の布を取り出し、アリスに突きつけた。
 いや、それは布ではなかった。
「そ、それはっ……!」
 アリスの目が大きく見開かれた。


「そう、絹織物の名産地で知られる崑崙、その中でも最高の生地を使い、世界最高峰のデザイナーが作り上げた超最高級のエプロンだっ!」
「見るがいい、この美しい輝き、洗練されたデザイン! 妥協無き完璧な作りを!」
「はきゅううんっ……」
 よく分からない声をあげて、とろん、とアリスの瞳が溶けた。
「それ、欲しいっ! 私にちょうだいっ!」
 アリスが、震える手を伸ばしながら言った。
「ならば、我らをご主人様と呼べーい!」
「う……、そ、それは……」
 アリスの手が止まった。感動に潤んでいた瞳が、ふっと警戒の色を宿す。
(まずい、失敗したか!?)
 騎の字が、小声で隣の狩の字にささやく。
(諦めるな! 思い出せ、俺達がこのエプロンを手に入れるまでに、どんな苦労をしてきたかを!)
 二人の胸の中に、浮かんでくる記憶があった。
 ミッドガルド大陸より遥か遠くに位置する、空に浮かぶ島・崑崙。
 長い旅路の果てにようやくその地に辿り着いた二人は、そこである言い伝えを耳にし――以下略。
(略されたぞ!? 我らの愛と感動に満ちた大冒険の記録が!)
(おい、何にツッコんでいるんだ? そんなことより、もっとこいつをPRするんだ!)
(う、うむ。そうだったな)
 こほん、と咳払いし、騎の字は叫んだ。
「貴女のメイドライフを華麗に彩りたい――その一心から作られたこのエプロン!」
 狩の字も続く。
「このエプロンをつければ、貴女の美しさはさらにヒートアップ!」
「しかもこのエプロン、優れているのは見た目だけではありません! ちゃんと実用面も考えてデザインされており、高い収納性は大変な日々の家事を大いに助けてくれるでしょう!」
「丸ごと水洗いできるのでお手入れも簡単! 生地に施された特殊加工により、シミや色あせの心配もございません!」
「さぁ、貴女もこのエプロンでワンランク上のメイドさんになってみませんか!」
「今ならなんと、このエプロンに加えてわが社特製のほうきもセットでこのお値段! ご注文はジャパネットた○たへ!」
(何だ狩の字、そのジャパネットたか○ってのは!?)
(す、すまん。ちと言い過ぎた)
 だが、彼らの必死のアピールは、がっちりとアリスの心を捉えていた。
「ふわぁ……」
 アリスは、ほぅ、とため息を洩らし、自らの頬に手を沿えた。
 きらきらと目を輝かせながら、うっとりとエプロンに見入るアリス。
 それは、さながらショーウィンドウのトランペットを見つめる少年のようであった。
 一歩、また一歩。
 魅入られたように、アリスはふらふらと騎の字が持つエプロンに向かって歩いてゆく。
 アリスの白い指先がエプロンに触れようとした刹那、
「おっと」
 騎の字が、ひょいとエプロンを遠ざけた。
「あんっ……」
 アリスの唇から、切なげな声が洩れる。
「やん、いじわるしないでください……それ、欲しいの……」
 甘い喘ぎにも似た声で、アリスは嘆願した。
「これが欲しいなら、どうすれば良いか――分かってるだろう?」
 アリスは暫しの逡巡の後、
「う……はい、ご主人……さま」
 消え入りそうな小さな声で、だが確実に、二人を自らの主人と認めた。


(イヨッシャアァアア! テイミング成功ゥオ!)
 二人は心の中でガッツポーズをした。今より一千年ほどの昔、地上の覇権を賭けて人間と魔族が激烈な戦争を繰り広げていた頃、武器らしい武器は何一つ持たず、己の拳のみで数多の魔族を打ち滅ぼした伝説の英雄にその名を由来する、由緒正しき勝利のポーズである。(民明書房刊『ミッドガルドを救った勇者達』より)
「ふっふっふ、ではアリスよ。主としてお前に命じる」
 口元に思わず笑みをこぼしながら、騎の字が言った。
「……はい、ご主人様。何なりとお申し付けください」
 すっかり従順になったアリスが、しとやかに頭を下げながら言う。
「あー、えーと。そうだな、うーん……」
 だが、騎の字はあれこれ呟くばかりで、一向に命令を発しようとはしなかった。
「ど、どうした騎の字」
 相棒の様子に異変を感じた狩の字がそう訊ねると、騎の字は困ったような表情を浮かべ、
「いや、いざ命令するとなると、何を命じていいものやら――」
 頭を掻きながら、そう言った。
「なんと、お前もか」
 狩の字が驚いたような声をあげた。
「ということは、狩の字。お前も思いつかんか」
「うむ――、まさか一発で成功するとは思ってなかったしな」
 ふむぅ、と二人は腕組みし、あれこれ考えを巡らせた。
 男達の胸中に去来する思いは、いかなるものか。じっと目を閉じ黙考する姿からは、その心中を推し量ることはできなかった。
 しばらくして、狩の字が口を開いた。
「済まぬ、騎の字。俺は萌人として失格かもしれん――」
 そう言って、己を恥じるかのようにため息を吐いた狩の字へ、
「どういうことだ、狩の字」
 と、騎の字が問うた。
「いや、つまり……、萌えとエロスは似て非なるものということは分かってはいるのだが」
「うむ」
「正直に言おう。性欲をもてあます」
「――――」
 騎の字は、無言で狩の字の肩に手を置いた。
「お前だけじゃないさ」
「騎の字――」
 狩の字は顔を上げ、相棒の顔を見つめた。
「俺も同じだ」
 それ以上、言葉は必要なかった。
 今、燃え盛る炎よりなお熱い漢達は、力強く互いの手を握り合った。
「――やりますか」


「さて、どっちから先にいく?」
 どちらともなく呟いた言葉に、瞬時に空気がその性質を変えた。まるで触れれば斬れる刃のような、危うげな緊張を秘めて。
 暫しの沈黙が流れた。
「俺が」
「いや、俺が」
 再び沈黙。
 二人の視線が空中でぶつかり合い、目に見えぬ火花を散らす。
「どうしても譲れんか」
「お前こそ」
 騎の字は、右手を愛剣を携えた左腰にやった。指先が、柄に触れるか触れないかの所で静止する。狩の字も右手を持ち上げ、自らの側頭部よりやや後ろ、背負った矢筒の先端へ回した。
「いいだろう。お前とはいずれ決着をつけねばならんと思っていた」
「ぬかせ。俺の台詞だ」
 固く結ばれた二人の友情は、それ以上に強固なる敵意によって掻き消えた。爛々と光る眼は、互いに必殺の一撃を見舞うタイミングを見出すべく、相手を凝視する。
 殺気立つ二人の主人を前にしておろおろと戸惑うアリスが、その緊張に耐え切れず、思わず手にしたほうきを取り落とした時。
 二人の腕が、同時に動いた。
 騎の字の腕が下段から跳ね上がり、狩の字の腕は上段から振り下ろされる。
 お互いの拳が激突するかに見えたその瞬間、二人の体はぴたりと静止した。
 時間が、その刹那だけ凍りついたかのようであった。
「よっしゃあああ!」
 勝利の雄叫びをあげたのは、狩の字であった。
「ぬぅっ――!」
 騎の字が苦悶の呻き声をあげる。その眼は、突き出した己の拳を見つめていた。
 硬く握り締めたその拳のすぐ側に、狩の字の手のひらがあった。
 狩の字に向かって突き出した右手は、グー。対して、狩の字が出したのはパーであった。
「残念だったな。じゃあ俺から先に行かせてもらうぜ」
 がっくりと膝から地面に崩れ落ちた騎の字を横目に、狩の字はアリスに向かって命じた。
「そうだなぁ……、まずは自分でスカートをめくってもらおうか」
「――はい、かしこまりました」
 アリスはぺこりと頭を下げ、自らのスカートの裾を両手で摘んだ。
 その手がゆっくりと持ち上がっていき、ニーソックスに包まれた脚部が露になってゆく。
 すらりと伸びた、無駄な肉の全くない脚であった。匂い立つような芳醇な色香はないが、しなやかな竹を思わせるその脚は、熟した色気とはまた違う、繊細な魅力を持っていた。
 裾がニーソックスの上端あたりまで来た時、アリスの手が止まった。
 アリスの目が、恥じらいを含んで狩の字を見つめる。
「誰が止めていいと言った? ――全部見せるんだ」
「う……、はい……」
 アリスの手が、再びおずおずと持ち上がってゆく。
 太ももの半ばまでを包んだニーソックスと、秘部を覆うレースのパンティとの間に、眩しい肌が覗いた。
 露出する部分が少ないだけ、却って情欲をそそる肌であった。
 その肌の上を、縦に這うストラップがあった。ストラップは、ニーソックスの上端と、腰骨のあたりに巻かれたベルトとを繋いでいた。
 狩の字は、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
 清楚な少女の面立ちと、まだ未発達の細い脚線。そこにガーターベルトというアンバランスな組み合わせは、見る者に倒錯的な欲望を抱かせるに充分な狂おしい魅力を放っていた。
「よし、そのままにしてろ」
 言って、狩の字はしゃがみ込んだ。
 顔を近づけ、普段は丈の長いスカートに包まれたアリスの下半身を、嘗め回すように目線が這っていく。
 湧き上がる羞恥心に、白磁のようなアリスの頬が、みるみる紅に染まっていく。
 スカートを握った手は、微かに震えていた。
 構わず、狩の字は鼻先をアリスの股間を覆った三角の布に近づけ、ふっと息を吐きかけた。
「んっ……」
 むず痒いような生暖かい感触に、アリスの体がぴくんと震えた。
 狩の字の指先が、蜘蛛の脚のように太ももの上を這い上がっていき、薄布越しに恥丘を撫でた。
「は……ぁ……」
 その下に隠れた柔肉の形を確かめるように、指の腹で何度も割れ目をなぞってゆく。初めは触れる程度だった指が、徐々に圧力を増していく。
 アリスは体を強張らせ、自らを苛む恥辱に耐えていた。膝を合わせるように硬く閉じた脚が、ぷるぷると震える。
 狩の字がパンティを下ろそうと手をかけた時、


「待った!」
 騎の字の声が轟いた。
「そこまでだ、狩の字! 交代してもらおうか!」
「異議あり! まだ持ち時間は終わっていないはずだ!」
 騎の字は首を振り、
「くらえっ!」
 手にした懐中時計を突きつけた。
「ぬ――ぐぐぐっ!」
 呻き声をあげ、狩の字は唇を噛んだ。時計の針は、間違いなく約束の時間が過ぎたことを告げていた。
「夢中になりすぎて時の過ぎるのも忘れていたようだな。さぁ、そこを退け! 俺の空手が時空を歪ませる前に!」
 己の敗北を悟ったショックからか、狩の字の頭に幻聴が鳴り響いた。それは、振り下ろされる木槌の響きに似ていた。
 がっくりと肩を落として身を退いた狩の字に代わり、騎の字がアリスの前に立った。
 アリスは自らの下半身をさらけ出したまま、じっと主人の言葉を待っていた。
 羞恥に顔を赤らめながら、それでも懸命に主の命に従おうとするその姿は、男達の黒い欲望をさらにかき立てた。
「ようし、自分でパンティを脱ぐんだ」
「……はい」
 アリスがスカートの裾から手を離そうとした時、
「おっと、スカートはめくったままだ。――そうだな、裾を口に咥えろ」
「……分かりました、ご主人様」
 命じられるがままに、アリスは自らのスカートを口に咥えた。へそのあたりまでめくれ上がったその下に、淡い下着姿が覗く。
 アリスはパンティに手をかけ、ゆっくりと下にずらしていった。つつしまやかな茂みが覗き、続いてその下の肉の花びらが露わになる。
「よし、そこまででいい」
 膝のあたりまで下ろしたところで、騎の字が静止を命じた。
 騎の字はすっとアリスに近づき、硬く閉じた脚の付け根へ右手の指先を伸ばした。
「ひゃっ……ん!」
 アリスの可憐な唇から、驚きの声にも似た響きが洩れた。
 無骨さしか知らぬ指が、無遠慮に柔肉の間を這い回る。
 親指の腹が敏感な肉の芽を捉え、押しつぶすようにぐりぐりと動き回る。
「はぁ……ん……」
 再びアリスの口から声が洩れた。官能の喘ぎを含んだ、甘やかな声が。
 絶え間ない愛撫に、アリスは細かく体を震わせた。閉じた肉の間から溢れた潤みが騎の字の指に絡み付き、淫猥な音を響かせ始めた。
 倒れこむように騎の字の胸に顔を埋めたアリスを、左手で抱きかかえるようにして、騎の字はアリスの秘所をまさぐり続けた。
 身体を駆け抜ける快感に、アリスの膝ががくがくと震えた。たまらず開いた口から、
「ご主人様ぁ……」
 と、哀願するような呟きが洩れ、咥えていたスカートがはらりと舞い降りた。
 顔をあげ、じっと己の主人を見つめるアリスを見て、騎の字は薄っすらと口元に笑みを浮かべた。
「どうした、立ってられないか?」
 こくん、と頷いたアリスに、騎の字は指を止めた。
 溢れた蜜をたっぷりと拭い取るようにしてから、濡れ光る指先をアリスの鼻先に近づけた。
「そりゃそうだろうな。もうこんなになってやがる」
「やぁんっ……」
 アリスの顔が、かぁっと耳まで赤くなる。
「まったく、お前のせいで汚れちまったじゃねぇか。どうしてくれるんだ?」
 顔を背けようとしたアリスを、ぐい、と向き直らせ、騎の字が言った。
「う……すみません、ご主人様……」
「ほら、綺麗にするんだ」
「はい……」


 アリスは両手でそっと騎の字の手を握り、指先を口に含んだ。
 暖かな感触が、騎の字の指を包み込む。
「んっ……ふ……」
 根元まで咥え込んだ指に、おずおずと舌を絡ませる。ざらついた舌の感触が、騎の字の指を撫でた。
「もっと口全体を使え。頭を動かすんだ」
「ふぁぃ……んくぅっ……んむ……」
 命じられるがままに、アリスはゆっくりと頭を前後に揺らし、ちゅぱちゅぱと音を立てながら指をしゃぶっていく。
「んぅ……んっ……む……」
 騎の字は指先を動かし、アリスの口内を撫で回した。
 絡みついた愛液を塗りたくるように、頬の内側や歯茎を、ごつごつとした指がなぞってゆく。
「美味いか? 自分の味は」
 アリスはこくこくと頷き、懸命に口内を動き回る指をしゃぶり続けた。口元から溢れた唾液が、糸を引いて地面に落ちる。
「よし、そろそろ――」
 そう呟いて、騎の字が指を引いた時、
「そろそろ、俺の番だな!」
 颯爽と現れたのは、狩の字であった。
「さぁどけ、すぐどけ、そこをどけ!」
「ちょ、待て――うわっ!?」
 狩の字は突き飛ばすように騎の字と体を入れ替えると、アリスの腰に手を回し、ぐっと抱き寄せた。
 そのまま、覆いかぶさるように押し倒していく。
「あっ……ん」
 膝に手をかけ、一気に脚を開いた。じっとりと潤んだ秘所が露わになり、アリスの体がぴくんと震えた。
「さて、と――」
 脚の間に体を滑り込ませ、狩の字はズボンのチャックを下ろした。硬く脈打つ男根が、天を向いてそそり立つ。
 先端が、濡れた肉の蕾に触れた。
「ふぁぁ……」
 アリスの瞳が、自らの主人を見つめた。とろけるようなその瞳は、期待に潤み、淫らな光を帯びていた。
「これが欲しいか?」
 焦らすように先端を擦りつけ、狩の字が訊いた。
 こくん、と無言で小さくアリスが頷く。
「黙ってちゃ分からないだろ? ほら、ちゃんとおねだりするんだ」
「ん……ぅ……」
 アリスが身を捩った。互いの陰部が擦れ合い、くちゅりと淫猥な音を立てる。
「ご主人様ぁ……お願いです、アリスの……ここに……入れてください……」
 アリスは自らの秘所を指で押し広げ、哀願するように呟いた。
「入れるだけでいいのか?」
 なおも入り口を撫でるだけの狩の字に、アリスはぶんぶんと首を振った。
「やっ……して……」
「ん? よく聞こえないな」
「犯……して……ください」
 薄紅色の可憐な唇から洩れ出た、自らの陵辱を望む言葉に、狩の字は満足げに笑みを浮かべ、
「ああ、たっぷりと犯してやるよ――それっ!」
 腰を突き出し、ずぶりと一気に根元まで肉棒を埋めた。
「はぁああっ……ん!」
 アリスの口から、悲鳴にも似た歓喜の声が洩れた。
「おぉおっ――!」
 獣のような唸り声をあげ、狩の字は乱暴に腰を振るった。
 狭い隙間の中を、熱く硬い肉棒がこじ開けるように前後する。
「はは、いい締りしてるじゃねぇか」
 言いながら、狩の字はアリスの胸の膨らみを両手で鷲掴んだ。
「ひぅんっ……!」
 握りつぶそうとでもするかのように、乳房に深く指を食い込ませる。アリスの体がびくんと震え、その顔が苦痛に歪んだ。
 構わず、服の上からぐにぐにと揉みしだいていく。
「あぁっ……! んくっ……ぅ!」
 アリスの喘ぎ声が、さらに大きくなる。


「狩の字、俺も――」
 辛抱たまらぬといった様子で二人の傍らに立ったのは、騎の字であった。
 既にさらけ出した肉棒は、はちきれんばかりに勃起していた。びくびくと脈打つ先端から、とろりと透明な先走りが溢れ出ていた。
「ああ。じゃあお前はこっちを使えよ」
 狩の字は、ぐい、とアリスの顔を横に向けさせた。
「おうよ。――そらっ!」
 地面に膝をついた騎の字は、アリスの口内に自らをねじ込んだ。
「んふぅっ……! むぅ……んんっ!」
 暖かい感触がペニスを包み、柔らかな舌が絡みつく。
「おぉ、いいぜ――」
 快感にぞくりと体を震わせ、騎の字はアリスの頭部を両手で掴むと、激しく腰を動かし出した。
「んぅっ! んく……むむぅっ……!」
 無遠慮に口内を動き回る異物に、アリスは懸命にむしゃぶりついた。
 喉まで突き込まれる先端に思わずむせ返りそうになり、目尻から雫が溢れる。
 だが、男達は一向に構う様子もなく、ただ自らの快楽を貪るためにアリスの肉体を犯していく。
 アリスもまた、情け容赦なく繰り広げられる男達の行為に、押さえ切れぬ肉欲の昂ぶりを覚えていた。
 恥ずかしいのに。痛いのに。苦しいのに。――なのに、どうしようもなく肉が疼き、さらなる快楽を求め戦慄くのである。
「ははっ、ますます濡れてきやがる。もうグチョグチョじゃねぇかよ」
 溢れ出た愛液を音を立ててかき混ぜながら、狩の字が呟いた。
「とんでもないマゾペットだな――ほら、もっとしゃぶれ!」
 容赦なく喉を犯しながら、騎の字がさらに激しく腰を振るう。
「んふぅっ……ううぅっ……!」
 呼吸さえままならない中、アリスは貪るように肉棒に吸い付き、舌を絡ませる。唇の端から洩れ出る吐息は、甘く官能の響きを帯びていた。
「お――出るっ、いくぞっ!」
 ぶるりと体を震わせ、騎の字はぐっとアリスの頭を引き寄せた。
 その喉に、熱い樹液が迸った。
「はぁあ……」
 射精の快感に酔いしれながら、騎の字はどくどくとアリスの喉に注ぎ続けた。
 アリスの白い喉が動き、注ぎ込まれた白濁を嚥下していく。
「ううっ、俺もいくっ――!」
 狩の字はそう言うと、ぬるりとペニスを抜き取り、立ち上がった。
「ほら、顔をこっちに向けろ――くぅっ!」
 びゅるっ! とアリスの顔の上に、濃厚な精液が迸った。
「あぁ……ふぁあ……」
 恍惚と目を細めるアリスの顔に、生臭い粘液が次々と浴びせられていく。
「お前の大好きな白ポーションだ。――ただし、特別製のな。どうだ、嬉しいか?」
「んぅ……」
 上体を起こし、鼻先から垂れ落ちてきた白濁液をぺろりと舌で舐め取って、アリスはにっこりと微笑んだ。凄まじく淫猥な表情であった。
「はい……ご主人様の白ポーション、美味しいです……」
「そうか。これからもいっぱい飲ませてやるよ」
 そう言って、男達はアリスの頭をそっと撫でた。
「ありがとうございます、ご主人様……」
 アリスがぺこりと頭を下げた時、
「おーい、アリス。まだ掃除は終わらんのか?」
 声と共に、近づいてくる足音があった。


 男達の背筋に、ぞくりと冷たいものが疾り抜けた。
「か、狩の字。この声は――」
「う、うむ。騎の字。もしや――」
 声の主が、ひょいと書棚の影から姿を現した。
「おお、こんな所におったのか――って、ここここれは一体なにごとじゃ!?」
「あ、イリューさま~」
 顔中にべっとりと白い粘液をまとわりつかせたまま、のほほんとした声でアリスが言った。
 イリューは半ば白目を剥いたまま、ぽかんと口を開けて硬直していた。
 これ幸いと男達は立ち上がり、
「おっと、いかん。そろそろ家に帰って夕餉の時間だ」
「うむ。俺も空腹を感じていたところだ」
「じゃ、俺達はそういうことで……」
 そそくさと立ち去ろうとしたその背中に、凄まじい魔力の波動が押し寄せてきた。
「貴様等ぁ……、よくもアリスをこんな目に遭わせてくれたなぁ……」
 地鳴りのような音と共に、微かに地面が上下し、天井から細かな石片がぱらぱらと降り注いできた。
 あまりの強大な魔力に、グラストヘイム全体が揺れているかのようであった。
「――なぁ騎の字」
「なんだ狩の字」
「逃げるか」
「逃げよう」
 頷いて、二人は一斉に走り出した。
「逃がすかぁっ! メテオストーム!」
「あーーーれーーー!」
 グラストヘイムの片隅に、髑髏状の雲が立ち上った。


 ――その一部始終を、物陰から息を潜めて見ていた男達がいた。
「やはりこうなったか、剣の」
「うむ。見るだけにしておいて正解だったな」
「しかし、アリスたんのあんなあられもない姿が見られるとは。ちゃんとSSは撮ったか?」
「もちろんだ。今回は我らが勝ち組だな、弓の」
 そう言った時、ふとレイドリックは手を置いていた壁に落書きがあるのを見つけた。
 声に出さず、レイドリックはその落書きを読んだ。
『このラクガキを見て振り向いた時、おまえらは』
 その先は、自分の手のひらの下にあったため、読むことはできなかった。
「――? 何だ、これは」
 レイドリックは手をどかし、続きを読んだ。
『このラクガキを見て振り向いた時、おまえらは死ぬ』
「なっ――!?」
 ばっと振り向いたレイドリック達の眼前に、巨大な黒剣を携えた深淵の騎士子が立ちはだかっていた。額には、ぴくぴくと脈打つ青筋が浮き立っている。
「おっと、いかん。そろそろ見回りの時間だ」
「うむ。俺も持ち場に戻らねば」
「じゃ、俺達はそういうことで……」
 立ち去ろうとしたレイドリック達の頭上を、びゅん、と黒剣が空気を裂いて通り過ぎた。
「――お前達、覚悟はできているだろうな?」
 地獄の悪鬼さえも怯むような声で、騎士子が言った。
「――なぁ剣の」
「なんだ弓の」
「やはりこうなったか」
「うむ。まぁ予想通りと言えないこともないな」
「ごちゃごちゃうるさいっ! ブランディッシュスピア!」
「あーーーれーーー!」


 ――後日譚。

「全く、アリスのエプロン狂いにも困ったものだ。あれさえなければいい子なんだがなぁ……」と、騎士子。
「ええい、下賎な人間どもとあのような行為をするなどと……(思い出し赤面) あとでたっぷりとお仕置きじゃ、アリス!」と、イリュー。
「えぅ……、ご、ごめんなさい~」と、アリス。

「だ、誰か、この矢を抜いてくれ……。っていうか、みんな、俺のこと忘れてるんじゃないか……?」と、ライドワード。