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 ふと気がつくと、窓の外はすっかり暗くなっていました。
 立ち並ぶビル群はネオンに彩られ、眼下の道路をヘッドライトの光が流れてゆくのが見えます。
 窓ガラスに、緑の事務服を着たひとりの女性が映っていました。
 芸能事務所765プロダクションの事務員、音無小鳥さんです。
「はあ……」
 小鳥さんはノートパソコンのキーボードを叩いていた手を止めて、やや疲れた様子で、椅子の背もたれに身体を預けました。
 指を組んだ手のひらを天井に向けて、ぐうっと両腕を伸ばします。だいぶ体が凝り固まっていたらしく、んーっ、と自然に声が洩れました。
 首筋から肩にかけての部分が、だいぶ張っています。脚なんかはむくみっぱなしですし、腰のあたりもちょっとヤバいかもしれません。
 まったく、長時間のデスクワークは乙女の大敵です。
 ストレッチ代りにぐいっと体をねじったところで、壁の時計が目に入りました。
「うう、もうこんな時間かあ……」
 しょんぼりと小鳥さんは肩を落としました。
 終業時刻なんてものは、とうの昔に過ぎています。だというのに、仕事はまだまだ終わりそうにありません。
「……何とか、終電には間に合うといいんだけど」
 小鳥さんは、ぽつりと呟きました。
 返事はありませんでした。
 一人暮らしの長い人にありがちなエア会話、いわゆる独り言です。
 すでに、765プロの事務所に残っているのは、小鳥さんただひとりでした。
 事務所があるのは、とある古ぼけた雑居ビルの四階です。
 この時間ともなれば、同じビルに入居している他のテナントも、もうほとんどが今日の業務を終えています。
 一階の居酒屋だけはまだ営業中ですが、そこの喧噪も、小鳥さんのいるフロアにまでは届いてきません。
 なんだか、建物それ自体がひっそりと眠りについてしまったような気がして、小鳥さんはふと物寂しくなりました。
 このところ、こうして残業することが多くなってきました。
 一時は、現役として活動しているアイドルが一人もいないというほど惨憺たる状況だった765プロですが、先だってようやくデビューしたアイドル候補生たちは、順調にトップアイドルへの階段を駆け上っています。
 それにつれ、事務員である小鳥さんの仕事量も、これまた順調に増え続けているのでした。
「ま、いっか。今は消化しなきゃいけない積みゲーもないし、どうせ帰っても飲んで寝るだけだしね」
 よしっ、と気合いを入れ直し、小鳥さんは再びカタカタとキーを叩きはじめました。
 けれど、すぐにまた手が止まってしまいました。
 知らず知らずのうちに、口から洩れるため息が、その回数を重ねていきます。
「うー、ダメダメ。集中しなきゃ」
 そう自分に言い聞かせてはみるものの、どうにもなりません。ついに小鳥さんは完全に作業を中断し、机の上に突っ伏してしまいました
「はぁ……、何やってるのかしら、あたし」
 ぐったりしながら、小鳥さんは呟きました。
 こんな時間まで独りでせっせと働いて、疲れ果てて帰る先は、誰もいないワンルーム。
 ただいまを言う相手もいなければ、おかえりなさいと迎える声もありません。
 別に、仕事そのものが嫌だというのではありません。
 自分を拾ってくれた社長には深い恩義がありますし、事務員という今の立場にも、充分なやりがいを感じています。
 事務所に所属するアイドル候補生たちは、小鳥さんにとって、家族も同然です。彼女たちがどんどんと売れっ子になってゆくのは、本当に嬉しいことでした。
 あるいは、我が子の成長を見守る親というのは、こんな気持ちなのかもしれません。
「子供、かぁ……」
 ふと、少し前に会った、学生時代の友人のことを思い出しました。
 久しぶりに会った彼女は、いつの間にか結婚していて、もう二人の子供がいるおかあさんになっていました。
 その日は二人で食事をしながら、懐かしい思い出話に花を咲かせました。けれども、しゃべり方や、何気ないクセなどはよく知ったあの頃のままなのに、なぜだか小鳥さんにはときおり、彼女がふいに自分の知らない別の誰かになってしまったように感じられて、そのたびに、ひどく不安めいた気持ちになったのでした。
 あらためて考えると、やっぱり彼女は、自分の記憶の中の彼女とは、もう違う存在になっていたのかもしれません。旧姓で登録されたままだった携帯電話のアドレス帳を改めながら、小鳥さんはそう思いました。
 彼女だけではありません。他の友人たちや、765プロのみんなも、時の流れと共に、どんどんと変わってゆきます。
 けれど、あたしは。
 小鳥さんは、きゅっと胸がしめつけられるような、息苦しい気持ちになりました。
 このままの毎日をずっと繰り返して、自分自身の幸せは、いつ見つかるんだろう。
 明かりを落とした薄暗い事務所に、ぽつんと独りきりになりながら、小鳥さんはなんだか、自分だけが世間の流れから取り残されてしまったような気がしました。
「ううーん、いつもはこんなこと考えないのになぁ……」
 机に突っ伏したまま、ぽそりと小鳥さんは呟きました。
 思考が堂々巡りになって、気分が際限なく沈んでいくのが、自分でもわかりました。このところの忙しさで、ストレスがたまっていたのかもしれません。
「こんな時は、やっぱり、あれ……かな」
 小鳥さんにとって、ストレス解消法といえば、おいしい食事においしいお酒。
 そしてもうひとつ、とっておきの――
「…………」
 小鳥さんはそのまましばらく机に伏していましたが、ついになにかを決心したように椅子から立ち上がると、つかつかと窓際に歩み寄り、しゃっとブラインドを下ろしました。
 そうしてもう一度自分の席に戻ると、スカートの両脇から手を入れて、パンツを膝のあたりまで脱ぎ下ろしながら、椅子の上にそっと腰掛けました。
 直に触れる座面の、ひんやりした感触が伝わってきます。
 小鳥さんは目を閉じて、服の上から左手で胸をおさえました。乳房の柔らかな弾力を確かめるように、軽く握りながら、ゆっくりと円を描くように手を動かしました。
 もう片方の手を、スカートの裾から伸びるふとももに這わせます。
 膝はまだぴったりと閉じたまま、スカートとニーソックスの間に覗く素肌部分を、静かに撫でていきます。
「は……ぁ」
 目を閉じたままの小鳥さんの唇から、甘いため息が洩れました。
 そうです。
 小鳥さんのとっておきのストレス解消法。
 それは、オナニーだったのです。
「……やっぱり、事務所でするんだから、ストーリーもそれらしいのじゃないとね」
 誰にともなく呟いて、小鳥さんは妄想を膨らませていきます。まずはキャラ設定。相手は会社の同僚で、次々とトップアイドルに導いたイケメン敏腕プロデューサー。
 二人三脚でこの厳しい業界を駆け抜けてきた彼に好意を寄せるアイドルは数あれど、彼は決して自らの育てたアイドルに手を出すことはしませんでした。なぜならそれは、この世界では決して許されない、最大のタブーだったからです。
 とはいえ彼も、なにかと盛んな年頃の男性です。うら若き可憐な乙女たちに囲まれて、ムラムラしてこないはずがありません。
 このままではいつか間違いが起きかねない、と考えた社長は、一計を案じました。
 それは非情な決断でした。
 プロデューサーの性欲のはけ口として、事務所に勤務する、アイドルではない一般の女性を、彼にあてがうことにしたのです。
 いわば、生け贄です。
 そうして、昼間は事務員、夜はプロデューサーの性奴隷という、彼女の二重生活がはじまったのでした。
「おお、これはなかなかハードな設定かも……」
 じゅるり、と小鳥さんは舌なめずりをしました。
 生き馬の目を抜く芸能界の荒波に翻弄され、若いプロデューサーの激しくも尽きることのない欲望にその身を陵辱されながら、いつしか自らも快楽に目覚め、彼との関係に溺れてゆく765プロの事務員、音無小鳥。そして今夜も、ひっそりと静まりかえったオフィスで、彼との秘密の逢瀬がはじまる……!
 と、アオリのナレーションを入れながら、小鳥さんは自らの胸をまさぐりました。強く指を食い込ませると、鈍い痛みのあとに、じんわりと甘い痺れが広がっていきます。
 ちなみにここからの会話は、小鳥さんの一人二役による、熟達の話芸をお楽しみください。
「あっ、だめっ、こんなところでっ……(←ちょっと演技入った高い声)」
「大丈夫ですよ、こんな時間に誰も来ませんって(←低めにイケメン男声っぽく)」
「でも、シャワーとかも、だからぁ……っん!」
「構いません。もう我慢できないんです。今日は昼間からずっと、小鳥さんを犯すことばっかり考えてたんですから」
 プロデューサーの手が(実際には小鳥さん自身の手なのですが)、スカートの裾から内側にすべり込み、ふとももの内側をさわさわと撫でさすっていきます。
「はっ……ぁぅ!」
 小鳥さんの濡れた唇から、押えきれない艶やかな声が洩れました。
 乳房を弄ぶ手がさらに大胆に動き、ずらしたブラジャーの下からぽろりとまろび出た豊満な膨らみを、ぐにぐにと揉み込んでいきます。
「小鳥さんだって期待してたんじゃないですか? ほら、乳首だって、こんなに硬くとがらせて」
 きゅぅっ、と人差し指と親指で乳首を挟み、強くつねりあげます。電流が流れたように、小鳥さんは両肩をびくんと震わせました。先端に跳ねた鋭い痛みが、ぞくぞくするような快感に変化しながら、身体の中を駆け巡っていきます。
「ふふ、相変わらずいい反応だ。まったく、いやらしい肉体ですよ、小鳥さんは。ほら、こっちだって」
 ふいに、それまで、陰毛の茂り具合を確かめるように控えめに恥丘を撫でていた指先が、ぐぅっと両足の付け根に深く潜り込みました。中指の腹が、ぷっくりとした柔肉の間をなぞり、幾重にも折り重なった肉色のビラビラを、解きほぐすように何度も往復していきます。
「あっ……! ふぁあっ……ん!」
「ははっ、もうぬるぬるじゃないですか。さっき事務所じゃダメだとか言ってたのはどうしたんですか?」
「それっ……はぁ、んんっ」
「じゃあここで止めて、今からホテルに行きましょうか。それとも、ぼくの部屋がいいかな?」
「んんっ……は……ぁぅっ」
 もじもじと、小鳥さんが膝をすりあわせながら、腰をくねらせます。その間も、プロデューサーの指先はくちゅくちゅと肉襞をなぞり、はだけた胸元から差し入れられた手が、思うさまに乳房の形を変えてゆきます。
「ほら、小鳥さん。言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないと分かりませんよ」
 つぷん、と浅く指先を中にくぐらせ、押し上げるようにしながら左右に細かく震わせます。とろけた内側からじわりと淫蜜が溢れるのが、自分でも分かりました。
「ふぁぁっ! このっ……ままぁ、してっ……欲しい……ですっ」
「うん? なにを、ですか?」
「ぷっ……プロデューサーさんっ……の、を、あたしのっ、中……はぁん! なかっ……にぃ、入れてっ、いっ……ぁ! 犯して欲しいっ……ですぅ!」
「なんだ。やっぱり小鳥さんもしたかったんですね」
「うんっ、したかったぁ……プロデューサーさんにっ、犯されるのっ……ずっと、待ってたっ……の、仕事中もっ、そればっかり考えてっ、からだ……疼いてっ、なにも手につかなくてぇっ……だから、してっ、犯してぇっ、あたしのいやらしい発情メス穴ぁっ……ずぽずぽっ、プロデューサーさんの肉棒でっ、かきまわしてっ……くださぁいっ!」
 叫びながら、小鳥さんは夢中でぐちゅぐちゅと指を動かしました。くぱぁっと広げた割れ目はぐっしょりと濡れ、垂れ落ちた汁が椅子にまで届いています。上着はもう半ば脱げ落ちて、あらわになった左右の乳房が、激しい愛撫にゆさゆさと揺れています。恍惚と快楽にとろけた顔は鮮やかに紅潮し、酸欠の金魚のようにぱくぱく動く口元からは、もはや意味をもたない言葉が、切なげな甘い叫びとなって溢れ出していきます。
 ぶるりと身体が震えました。遠雷が近づいてくるように、自分の身体がオーガズムに達しようとしているのを、小鳥さんは感じました。たまらず腰が勝手に動き、事務所のデスクや椅子がががちゃがちゃと音を立てて揺れましたが、もうそんなことを気にする余裕などあるはずもありません。
「小鳥さん、小鳥さんっ!」
 プロデューサーが、小鳥さんの名前を呼んでいます。小鳥さんはその声に、どこか切羽詰まったものがあるのを感じました。あるいは、彼も限界が近いのかもしれません。こんなに激しく中を突き上げてきて、きっともうすぐ、二人は一緒に絶頂に達するに違いありません。
 そう、薄く目を開ければ、そこにはあたしをまっすぐに見つめるプロデューサーさんの顔があって――
 うっとりと夢見心地に酔っていた小鳥さんの目が、細く見開かれました。
「ちょっと、小鳥さんっ! なんて格好してるんですかっ!」
「……ふぇ?」
 見上げると、そこには、なにやら慌てた様子のプロデューサーが、顔を赤くしながら立っていました。
「あれ? プロデューサーさん?」
 それはさっきまで小鳥さんの妄想の中にいた非実在プロデューサーではなく、小鳥さんと同じく765プロに勤める、本物のプロデューサーでした。
 一瞬、何がどうなっているのか飲み込めずにきょとんとしていた小鳥さんですが、すぐに事態を把握すると、ぼふん、と破裂したように顔が真っ赤になりました。
「ぷぷぷプロデューサーさん、その、もしかして、見てました?」
「……す、すみません、いけないとは思ったんですけど」
「いいい、いえ、そそそんな、あたしの方こそ」
 よく分からない熱い譲り合いをしながら、互いに目をそらします。あまりの恥ずかしさで、顔から火が出そうでした。いったいどのあたりから見られてたんだろうと思いましたが、もちろんそんなことを聞けるはずもありません。
「と、とにかくっ、小鳥さん、早く服を着てください。小鳥さんは気づいてなかったみたいですけど、足音がしたんです。誰か来るかもしれません」
 プロデューサーがそう言った時、誰かが事務所のドアの前に立つ足音が、今度は小鳥さんの耳にも、はっきりと聞こえました。
「やばっ……!」
 小鳥さんとプロデューサーは、ばっと二人同時にドアの方に顔を向けました。がちゃり、とドアノブが回されます。小鳥さんの心臓が、どくんと音を立てて跳ね上がりました。
 次の瞬間です。
「あっ、開いてたよ、千早ちゃん!」
「はぁ……、春香。あなた、鍵が掛かっていたら、どうするつもりだったの?」
「それはもちろん、ガラスにガムテープ貼ってパンチだよ」
「そんなことしたら、警備会社の人が速攻で駆けつけてくるわよ」
 ドアが開いて、にぎやかな声が事務所の中に響きました。
 やってきたのは、春香と千早でした。プロデューサーの姿に気がついた二人は、礼儀正しくぺこりとお辞儀をしました。
「なるほど、プロデューサーが残ってらしたんですね」
「遅くまでお疲れさまです」
「お、おう。二人ともどうしたんだ? こんな時間に」
 椅子に腰掛け、デスクに向かっていたプロデューサーは、立ち上がらずに、顔だけを二人の方に向けて応じました。
 さっきまで、小鳥さんがオナニーに耽っていた、あの椅子です。
「それが、春香ったら、事務所に忘れ物をしてきたみたいで」
「へ、へえ」
 なるほど、春香はぱたぱたと事務所の奥に駆け込んで、なにやらロッカーのあたりをどたばたとひっくり返しています。
「プロデューサーはお仕事ですか?」
「ま、まあ、そんなところかな」
「大変ですね。こんな時間までお一人で残業だなんて」
 そんなプロデューサーと千早のやり取りを、小鳥さんは机の下に隠れながら、じっと息をひそめて聞いていました。
 小鳥さんの服は大きくはだけ、おっぱいがぽろりとこぼれ出ています。スカートはめくれあがり、下着の脱げた下半身が丸見えになったままでした。
 もう服装を正している猶予はないと思ったプロデューサーが、とっさの判断で、机の下に小鳥さんを押し込んだのです。
「そういえばプロデューサー、そこは音無さんの席では?」
「うん? あ、ああ、そうだな。ええと、小鳥さんがやり残した仕事があったから、おれがやっておこうかなって思って」
 小鳥さんのすぐ目の前に、椅子に腰掛けるプロデューサーの下半身がありました。暗さに目が慣れてくると、ふと、小鳥さんは、プロデューサーのズボンが不自然に膨らんでいることに気がつきました。
 ポケットにものを詰め込みすぎている? ううん、それにしてはちょっと位置が不自然なような……と、そこまで考えて、はっと小鳥さんは何かに思い当たりました。
 ごくり、と口の中のつばを飲み込みます。
 これって、やっぱり、あれよね、勃起してる……のよね。
 どきどきと胸が高鳴るのを、小鳥さんは感じました。プロデューサーが勃起しているとなれば、その理由はもちろん、小鳥さんのオナニーを見ていたからに他なりません。
 あたしの……で、興奮してたんだ。
 あんな痴態を目撃されて、正直ドン引きされてるんじゃないかとビクビクしていただけに、プロデューサーのこの反応は、小鳥さんにとって意外でした。そして、ほっと安堵するのと同時に、なんだかうきうきするような喜びが湧き上がってくるのを、小鳥さんは感じていました。こんな自分でも、プロデューサーさんにとっては、女として性的興奮の対象になっているのだというのが、嬉しかったのでした。
 きゅうん、と自分の肉体の真ん中が、ふたたび熱を帯びて疼き出すのを、小鳥さんは感じていました。
 そっと手を伸ばして、膨らみに触れてみます。硬くて、重量感のある手応えが、布越しに返ってきました。
「……そうでしたか。確かに、音無さんは近頃ちょっと疲れがたまっているようでしたからね」
「そっか、千早も気がついて……って、ちょ!?」
 小鳥さんは、ズボンのチャックを下ろして、プロデューサーのペニスを取り出しました。初めて見る、本物の男性器。それは想像以上に猛々しく、まさに肉でできた太い棒そのものでした。こんなものが、男の人の股間にはみんなぶらさがっているのだということが、ちょっと信じられませんでした。
「どうしました? いきなり」
「ななな、何でもないよ。すまない、突然大声出しちゃって」
「……もう。驚かせないでください、プロデューサー。お疲れなのでしたら、一休みされては? よろしければ、コーヒーでもいれてきましょうか」
「い、いや、いいよ、そんな、ダメっ、だめだって」
「ダメ、ですか。では、やめておきます」
「いや、違っ……じゃなくて、あ、ありがとう千早、気持ちだけ受け取っておくよ」
「……はあ、まあ、なんでも、いいですけれど」
 小鳥さんは好奇心のかたまりになったように、夢中でプロデューサーの勃起をぺたぺたと触りました。硬いけれども弾力のある、摩訶不思議な触感。熱を帯びた力強い脈動が、握った手のひらに伝わってきます。
 つるんとした亀頭から、大きくエラの張ったカリ首。はじめは威圧的に感じたその風貌も、しばらく弄っているうちに、なんだか可愛げのある、愛嬌に満ちた形に見えてきました。
 こんなに雄々しくそそり立ちながら、ちょっと指でなぞるだけで、びくんびくんと敏感な反応が返ってきます。打てば響く、といったそれが妙に面白くて、小鳥さんはさらに調子に乗って、あれこれとペニスをいじくりました。
 ペニスの先端から、透明な液体がじわりと溢れ出し、ぷっくりと水玉が膨れていきます。やがて重力に負けてとろりと垂れてきたその汁が、ペニスを扱く小鳥さんの指に、ぬるぬると絡みついてきました。
 彼氏いない歴イコール年齢の終身名誉処女小鳥さんですが、男性がオーガズムに達した時に射精が起き、精液が放出されるというメカニズムは知っています。ネットの色々なあれで、無修正のそういったシーンを見たことも何度もありました。だからはじめてみるこれが、男性が興奮した時に分泌される、いわゆるガマン汁だということも、知識としては持っていました。
 ――感じてるんだ、プロデューサーさん。
 小鳥さんはふいに、手に握ったこの熱い強張りに、たまらない愛おしさを感じました。
 このまま、このおちんちんを、イカせてみたい。
 湧き上がったその衝動に突き動かされ、小鳥さんは、プロデューサーのペニスを口に含みました。
「んっ……む、ちゅっ……」
 口に溢れる唾液を絡ませ、亀頭に舌を這わせます。ぬるりとしたカウパーの舌触りと、塩気を含んだ味。フェラチオをする妄想はこれまでに何度となくしてきましたが、実際にこうして頬張ってみると、想像以上の興奮がぞくぞくと身体を駆け抜けていきます。
 たまらずに、自分のあそこにも指を這わせます。そこはもうたっぷりと濡れていて、驚くほどすんなりと指先が中に沈み込みました。
「うぁっ……! く……ぅっ」
「あの、プロデューサー?」
「だ、大丈夫だよ、本当に、何でもないっ、から」
 口の中でびくびくと暴れるペニスの反応を感じながら、もっとプロデューサーが気持ちよくなるところを探して、あちこちをぺろぺろと舐め回してみます。指の時よりもずっと大きな反応が返ってきて、小鳥さんは無性に嬉しくなりました。
 ずっぽりと根本まで咥え込むと、プロデューサーの陰毛が顔にこすれてくすぐったいのが、なんだか新鮮な驚きでした。小鳥さんがこれまでに咥えたことのある、電池で動くおもちゃのペニスなんかには、そんなものは生えていなかったからです。そのむずむずするような感触が、体温以上に、これが本当にプロデューサーの身体の一部なのだという認識を、小鳥さんにもたらしました。
「どこか具合でも悪いのでは? 少し顔が赤いようですし、熱があるのかもしれません。それに、呼吸もなんだか苦しそうです」
「し、心配いらないって。もうっ……出るっ、じゃなくて、大丈夫だよ。だい……じょっ、うぶ」
「でも」
 と、千早がさらに近づいて、プロデューサーの顔を覗き込もうとした時です。
「あった! あったよ、千早ちゃん!」
 いかにも女の子してる可愛らしい財布を振り回しながら、春香が二人のところに駆け戻ってきました。
「……あ、春香」
「つっ……あ、う……くぅうっ……!」
 千早が春香のほうに振り向くのと、プロデューサーが射精の快感にびくりと身体を震わせ、洩れそうになる声をぐっと歯をかんで抑えるのとが同時でした。
 びゅるるっ、びゅく、びゅくん、と小鳥さんの口の中に、勢いよく温かなものが溢れ出してきます。小鳥さんは口いっぱいにペニスを頬張ったまま、うっとりとしながらそれを受け止めました。へんてこな苦みのある味に、自分がこのおちんちんをイカせたのだという、満足感と達成感がこみ上げてきて、小鳥さんも声を殺しながら、ぞくぞくと大きく体を震わせました。
「お待たせ。ごめんね、千早ちゃんまで付き合わせちゃって」
「そんなの、気にしなくてもいいわよ。それより春香、別にお金くらい、私が貸してもよかったのに」
「えー、お金だけじゃないよ。ほら、これ」
「……ポイントカード?」
「うん。それで、今から千早ちゃん家に行く前に、駅前のマツモトキヨシに寄ってってもいい?」
「それはもちろん、構わないけれど」
「本っ当にごめんね、お詫びに次の千早ちゃんの食事当番、あたしが代わるから」
「そう? なんだか悪いわね」
「もう思いっきり腕によりをかけて、ごちそう作っちゃうから!」
「ふふ。じゃあ、期待しておくわね」
「あー……、二人とも、盛り上がってるところ悪いんだが」
 コホン、と咳払いをひとつして、プロデューサーが春香と千早の会話に割り込んできました。
「マツキヨなら、急がないともうすぐ閉店時間だぞ」
「ええっ!? ホントだ、もうこんな時間だよ! どうしよう、千早ちゃん」
「あ……でも、プロデューサー」
「大丈夫だよ、千早。おれのことなら、心配いらないって。本当になんともないから」
「……そうですね、なんだか先ほどよりも落ち着かれたようで、顔つきもすっきりされてますし」
「戸締まりなんかはおれがちゃんとしておくから、二人はもう帰りなさい。女の子なんだから、あんまり夜遅くに出歩いちゃだめだぞ」
「はい。プロデューサーも、あまり根を詰めすぎないように」
「うんうん。小鳥さんのことが心配でたまらない、ってのは分かりますけど」
「なっ……いや、そんなわけじゃ」
「ふふ。お二人とも本当に仲がよくて、うらやましいです」
「だよねー、夫婦オーラ出てるっていうか」
「な、なに言ってるんだ二人とも。いいからほら、早く帰りなさい」
「はぁーい」
「それでは、お先に失礼しますね」
 ぱたぱたと二人の足音が遠ざかっていき、ドアの向こうに消えていきます。
「それで、春香は何を買いにいくの?」
「えっとね、あせワキパットの、ベージュのやつ」
 階段を下りながら二人が交わす会話の声も、やがて遠ざかり、そのうちに完全に聞こえなくなりました。
 765プロの事務所に、静寂が戻りました。
「……もう出てきても大丈夫ですよ、小鳥さん」
 プロデューサーの言葉に、おずおずと小鳥さんは机の下から這いだしました。まだ乱れたままの服装に気づいたプロデューサーが、目のやり場に困ったように、斜め上45度の方角を見上げます。
 かくいう小鳥さんの方も、まともにプロデューサーの顔を見ることができませんでした。頭の中では、さっきの春香と千早の言葉が、ぐるぐると渦を巻いてリフレインしています。
 夫婦? 仲がいい? あたしと、プロデューサーさんが?
 ええどうしよう、そんな風に思われてたなんて。いやでもそうプロデューサーさんとは仲のいいお友達でよくご飯を一緒にそれは別にデートとかじゃなく仕事帰りの居酒屋でキンキンに冷えたビールがああでも気がつくといつも隣にだってそれは同じ会社の同僚だからそんな夫婦とかだいたいアイドルに囲まれたプロデューサーさんがあたしなんかを選ぶはずがっていやそもそもあたしは――。
 ぐるぐる、ぐるりと渦巻いて、思考がひとつのところに収束していきます。
 束ねて集めてひっくるめて、すとんと落ちて、ぴったりとはまりこみました。
 ああ、そっか。
 そうだったんだ。
 それは気がついてみれば、とても簡単なひとことでした。
 あたし、プロデューサーさんのことが好きだったんだ。
 ドキドキと胸が鳴るのが、自分でも分かりました。これなら心臓が止まったらすぐわかるなあ、なんて方向違いのことが、ちらりと脳裏をよぎります。なんだか急に酸素が薄くなってしまったみたいで、息が苦しくなりました。
 思えば、オナニーの時のあの妄想だって、無意識のうちに、現実のプロデューサーをモデルにしたからこそのものだったのかもしれません。小鳥さんは、子供の頃に読んだ、チルチルとミチルのおはなしを思い出しました。そう、青い鳥は、すぐ近くにいたのです。
 ちらりと、横目でプロデューサーの顔を見て、すぐにまた目をそらします。
 ああもう、どうしよう。
 一度はっきり自覚してしまえば、もうあとからあとから、大好きが溢れて止まらなくなってしまいました。
 意識しすぎて、まともに顔を合わせることもできません。
 ていうか、あたし、プロデューサーさんに、自分でしてるとこ見られちゃって。そのあと、机の下でプロデューサーさんの……お口で、咥えて。
 自分の行動を思い出しながら、小鳥さんの顔色が、かああっと真っ赤になっていきます。
 まったく、我ながらとんでもないことをしてしまったものだと、小鳥さんは思いました。
 ううう、どうしよう。
 なにか、なんとか、うまいことフォローしなきゃ。
 レティクル座からの毒電波に操られてたから、とか、ああしないとおじいちゃんにコーラを飲ませてびっくりさせると脅されてた、とか。
 とにかくそのへんはなんとかするとして、まずは自然に会話をしなきゃ、とは思うのですが、何を言えばいいのかわからず、言葉が出てきません。
「……あのっ、プロデューサー」
「……あのっ、小鳥さん」
 思い切って口を開いた小鳥さんと、プロデューサーの声とが、同じタイミングで重なりました。
「な、何ですか? 小鳥さん」
「ぷ、プロデューサーさんこそ」
 ひとしきり熱い譲り合いをして、また二人の間に沈黙が横たわります。
 そんなことを幾度か繰り返した末に、
「……えっと」
 と、切り出したのは、プロデューサーでした。
「あの、小鳥さん。さっきの、春香たちの言ってたことですけど」
「あ……は、はいっ」
「小鳥さんのことが心配だった、っていうのは、ある程度当たってるんですけど」
 そういえば、と小鳥さんは思いました。事務員という立場上、社員の予定は頭に入っています。プロデューサーは今日は直帰になっていたはずでした。なのに、こんな時間に社に戻ってきたのは――。
「でも、それだけじゃないんです」
「それだけじゃない?」
「正直に言うと、下心もあったんです。小鳥さんと二人きりになって、もっと親密な関係になれたらいいな、っていう」
「…………」
「だから、その……びっくりしたけど、嬉しかったです。小鳥さんが、おれのことを、そんな風に思ってたっていうのが」
 どきんと心臓が跳ね上がって、勢い余って口から飛び出しそうになりました。
 どうやらプロデューサーは、小鳥さんのオナニーの相手を、自分だと誤解しているようでした。思わずそれはプロデューサー違いですと言いそうになりましたが、小鳥さんはぐっとこらえました。途中経過はどうあれ、小鳥さんがプロデューサーのことを好きだというのは間違ってないのですから、結果オーライです。オーライなのです。
「小鳥さん」
 プロデューサーは小鳥さんの方に向き直り、まっすぐにその目を見つめました。
「おれ、小鳥さんのことが好きです」
 一瞬、世界が遠くなったような気がしました。
 次元を隔てた向こうから届いたその言葉が、耳から入って頭の中に染みこんで、小鳥さんの中にじんわりと浸透していきます。そうして身体の隅々までが満たされた時に、ふいに、視界がぼやけました。
 ぽろぽろと、大粒の涙が、小鳥さんの目からこぼれ落ちました。
「こ、小鳥さんっ!? す、すみません、おれ、変なこと言っちゃったですかっ!?」
 プロデューサーは、小鳥さんがどうして泣き出したのかわからずに、あたふたと慌てています。その様子がなんだかおかしくて、小鳥さんは泣きながら笑いだしました。
「ううん、違うんです、プロデューサーさん」
「ち、違う?」
「嬉しいんです。ほんとに、嬉しくて、だから……あはは、涙って嬉しい時にも出るんですね」
 小鳥さんは目尻を拭って、にっこりと微笑みました。
「小鳥さん……」
「ありがとうございます、プロデューサーさん。私も、プロデューサーさんのことが好きです」
 それは涙と同じように、自分の中から湧き上がって、自然と外に溢れ出した言葉でした。
 次の瞬間。
 小鳥さんの身体は、プロデューサーに、強くぎゅっと抱きすくめられていました。
「ぷ、プロデューサー……さん?」
「すみません、小鳥さん、おれもう、止められそうにない……です」
 プロデューサーがそう言うやいなや、温かなぬくもりを持ったものが、小鳥さんの唇に触れました。それがキスだと頭が理解するまでに、ひどく時間がかかりました。
「んっ……ちゅ、ちゅくっ……んふ」
 ぬるりとした舌が、唇を割って入り込んできます。もちろん小鳥さんにとっては、これがはじめてのキスでした。舌と舌が触れ合って、二人の唾液がひとつに混ざり合っていきます。まるで頭の中を直接に舐め合っているような気がして、小鳥さんは体から力が抜けていくのを感じました。
 力強いプロデューサーの抱擁。そんなに大柄ではない方なのに、どこにこんな力があったんだろう。それとも、男の人はみんな、こんなに力持ちなのかな。小鳥さんは、ぼんやりとした思考の片端で、そんなことを思いました。
 膝を震わせながら、やっとのことで立っていた小鳥さんの身体を、プロデューサーがそっとデスクの上に押し倒していきます。せっかく裾を正したスカートがまた大きくめくりあげられ、プロデューサーの体が、広げられた両脚の間に割り込んできました。
 もう小鳥さんも、プロデューサーがなにをしようとしているのか、そして、自分がなにをされようとしているのかを、はっきりと理解していました。
「小鳥さん……その、最後まで、したい……です」
「プロデューサー、さん……」
 仰向けに見上げたすぐ目の前に、プロデューサーの顔がありました。視線が間近で重なり合い、緊張と興奮で、頭の中はもうパニック寸前です。
 その一方で、小鳥さんは自分の心の中に、ひどく穏やかな部分があるのも感じていました。衝動に突き動かされ、熱に浮かされたように夢中でペニスを頬張った時とは違います。お互いの気持ちを知った今、それはプロデューサーへの信頼なのだと、小鳥さんは気がつきました。
 こくん、と小さく、けれどはっきりと、小鳥さんは頷きました。
 プロデューサーがベルトのバックルを外し、ズボンを下ろすのが見えました。さっき机の下で一度は果てたペニスは、ふたたび雄々しく立ち上がり、天を向いていました。
 あれが、今度は、あたしの中に。
 どきどきと、胸が高鳴る音が、頭の中にまで響いてきます。プロデューサーが、握ったペニスをぐっと中心めがけて押し込みました。めりめりと肉の扉が広げられ、熱を持った先端が自分の内側へと沈み込もうとしてくるのが分かりました。
 ふいに、恐怖心がこみ上げてきました。これまで興味本位でいろいろなものを入れたりはしたけれど、本物のペニスを受け入れるのは、もちろんこれがはじめてです。
 小鳥さんの不安げな表情に気がついたプロデューサーが、腰を落とすのを途中で止めて、そっと小鳥さんの手のひらに、自分の手のひらを重ねてきました。
「大丈夫……、優しく、しますから」
「はいっ、プロデューサー……さん」
 指に指を絡ませて、ぎゅっと手を繋ぎます。ふたたびプロデューサーが腰を進め、ずにゅぅう、と、たまらない異物感が小鳥さんの中に進入してきました。瞬間、鋭い痛みが跳ね、小鳥さんはぐっと唇を噛みしめました。伸縮性の限度いっぱいにまで広げられた肉の洞穴が、悲鳴をあげるようにヒクヒクと収縮します。
「はぁぁぁんっ……ぁ!」
 止めていた息をいっきに吐き出すと、一瞬感じた刺すような痛みは、甘い疼痛に変化していました。股間の異物感はそのままですが、それを不快だとは思いませんでした。むしろそれが、プロデューサーと繋がっているのだという強い実感を呼び起こしました。
「……ごめん、痛かった?」
「ううん、平気……です。これなら、その、動いて……も」
「わかりました。でも、どうしても痛かったら、我慢せずに言ってください」
「は、はい……でも、ほんとに、大丈夫、だと思います」
 小鳥さんの言葉を、プロデューサーは強がりだと思ったようでしたが、でもそれは半分以上本音でした。今は痛みはすっかりなくなって、ただ甘い疼きだけがじんじんと身体の芯にありました。歴戦のヘヴィオナニスト小鳥さんは、男性経験こそありませんでしたが、すでに身体は悦びを知ってしまっているのでした。
 ゆっくりとプロデューサーが腰を振りはじめると、ぞくぞくと快感が背筋を駆け抜けていきました。反り返ったカリが小鳥さんの内側を擦りあげ、その肉体から快楽を引きずり出していきます。ひと突きごとに、理性と思考が突き崩されていくようでした。そうして、代わりに純粋でシンプルな悦びが、小鳥さんの中を満たしていきます。
「ふぁぁあっ! あ……ぁんっ、んんっ!」
 肉体の内側に充満した愉悦を吐き出すように、甘い喘ぎ声が小鳥さんの濡れた唇から洩れました。
「くっ……ぅ、すごっ……小鳥さんの中、絡みついてっ……」
 プロデューサーは、はっ、はっ、と荒い呼吸を繰り返し、小鳥さんの中を往復していきました。歯をぐっと食いしばり、額にはいくつも汗が玉になって浮いています。その恍惚とした顔を見ながら、ああ、プロデューサーさんも気持ちいいんだ、と小鳥さんは思いました。
 もっと気持ちよくなって欲しい。もっとあたしを感じて、あたしの中で、思い切りすべてを吐き出して欲しい。
 と、そんな気持ちが小鳥さんのなかに膨らんできました。それは独りでするオナニーの時にはなかった感情でした。誰かと一緒に高め、感じ合う。ふと、そうか、これがセックスなんだと、小鳥さんは思いました。
「プロデューサーさんっ、あ……ぁっ、もっと、激しくっ……ぁん!」
「小鳥さんっ、小鳥さんっ……ぅ、うぉおっ!」
 ぱちゅん、ぱちゅんと腰が激しく打ち合わされ、机や、その上のものががたがたと大きく揺れています。上着がはだけられ、ぎゅっと乳房を強く揉みしだかれました。
「はぅあぁぅうん!」
 身震いするような快感に、肩をすくませてよがり声を洩らします。乳首をきゅっとつまみ上げられると、よがり声はさらに高まり、絶叫に近くなりました。
「あぁぁあっ! ひぁ、ひぁぁっ、ぷろ、プロデューサーさぁぁんっ!」
 脚ががくがくと震えだしました。全身が快楽という神経毒に侵されて、肉体が脳からのコントロールを失っていきます。膣穴がきゅぅんとうねるように収縮し、体中に鳥肌が立つのがわかりました。
「イッちゃ……イッちゃいますっ、プロデューサーさんっ、ふぁあああぁっ!」
 びくぅうんっ! と小鳥さんの身体が跳ね、エビのように仰け反りました。意識が飛びそうになるほど気持ちよくて、もう自分がどんな顔をしているのかも分かりませんでした。
「あっ! 小鳥さんっ……も、出るっ……!」
 プロデューサーのペニスがびくんと大きくなかで震えました。とっさに腰を引こうとしたプロデューサーの身体を、小鳥さんはぎゅっと抱き止めました。両足でがしっと腰をロックし、根本まで深く繋がります。
「ちょっ、小鳥さんっ!? あ……あぁっ!」
 びゅるるっ! びゅくっ、ぶびゅるるるっ!
 さっき口の中で受け止めたのと同じ、いえそれ以上の激しい射精が、自分の膣奥に叩きつけるのを、小鳥さんは感じました。どく、どくっと一定のリズムで注ぎ込まれる熱いかたまりが、子宮の中を満たしていきます。たまらない多幸感に頭がぼうっとして、小鳥さんはうっとりとそれに酔いしれました。
 そのまましばらく、乱れた呼吸がゆっくりになるまで、二人は繋がっていました。重ねた肌のぬくもりが心地よくて、ふと、このまま眠りたいな、と小鳥さんは思いました。けれど、ここが事務所である以上、そういうわけにもいきません。やがて名残惜しい時間は終わり、腰が抜けて立ち上がれなくなっていた小鳥さんの体を、プロデューサーがティッシュで拭いてくれました。それがもう恥ずかしいやら、くすぐったいやらで、小鳥さんは顔を真っ赤にしながらてれてれとするばかりでした。
 服を着終えて、二人で一緒に帰り支度をしている時でした。ふとプロデューサーが改まった顔をして、小鳥さんに向き直りました。
「すみません、小鳥さん。その、中に……出しちゃって」
 プロデューサーはそこで一度言葉を切りました。その顔に、なにやら決意めいたものが浮かんでいます。
「えっと、何があってもおれ、ちゃんと責任取りますから」
 一瞬ぽかんとしていた小鳥さんですが、すぐに、プロデューサーの言葉の意味を理解したようでした。見る間に顔が真っ赤になっていき、感極まったようにふるふると小刻みに体が震えました。
 小鳥さんはプロデューサーの胸元にこつんと額を押し当てて、体を預けました。プロデューサーが慌てて、小鳥さんをぎゅっと抱き止めます。
「……計画通り」
 ぽつりと呟いた言葉と、その時の小鳥さんの邪悪な笑みを、プロデューサーは知りません。むしろ小鳥さんのその行動を、照れ隠しだと思ったようでした。
「二人で幸せな家庭を築いていきましょう、小鳥さん!」
「ええ、もちろんです、プロデューサーさん」



 END