Candy Sweet Pop Lovers

 張り替えたばかりの弦を、指先で軽く弾く。
 びぃん、という小気味良い音がした。
 うん、悪くない。
 いつもながら、ハワードの確かな目利きには感心させられる。まったく、どういうルートでこれだけの良品を仕入れてくるのだろう。
「セシルちゃん、どうですの?」
 と、傍らのマーガレッタ=ソリンが訊いてきた。
 マーガレッタは、興味津々といった様子で、あたしの手元を覗き込んでいる。
「オッケー。ばっちりだよ」
 あたしは満足げに頷いて、すぐにそれを打ち消すように、小さく首を振った。
 はあ、と溜息が洩れる。
 その様子を見て、マーガレッタはきょとんと首を傾げた。
「どうしましたの? 弓の修理は上手くいったのでは?」
「ああ、いや。そっちの方は全然いいんだけどさ」
「じゃあ、それ以外に何か?」
「いや、なんかこう、武器の手入れに充実感感じちゃってるあたしって、どうなんだろうって思ってさ」
「いいじゃありませんか。真剣な表情で弓に向かうセシルちゃんもステキでしたわ」
 マーガレッタが、真顔であたしの目を見ながら言う。
 思わず、あたしは仰け反るようにして、マガレから体を離した。
 あたしの反応に、マーガレッタが再び頭の上に疑問符を乗っけて、はて、と首を傾げる。
「セシルちゃん、どうかしましたか?」
「ああ、いや。何でもないよ」
 そう言って、あたしはほっと胸を撫で下ろした。
 どうやら、今のステキ発言は、下心の混じらない、純粋に友人としての評価を述べたものだったらしい。
 マーガレッタが女性を褒める時というのは、要注意だ。
 そういった場合、大抵は、その裏に秘めた下心があるからだ。
 いや、秘めるどころか、むしろ全開で口説きにかかってる、といった方がいいかもしれない。
 そう。
 こいつは、女でありながら、女の子が大好きという、そういう奴なのである。
 まったく、表向きは淑やかなプリーストだってのに。
 我が友人ながら、とんでもない奴だと思う。
 かくいうあたしも、こいつには何度か――いや、それはいい。
「でもさ、たまーに考えない? もし違う道を選んでたら、今頃どうなってたのかなって――」
「違う道、ですか?」
「うん」
 こんな血塗られた道じゃなくてね、とは言わなかった。
 そんなこと、わざわざ口に出して言わなくたって、マーガレッタも分かっている。
 あたしは、視線を床に落とした。
「ホントに、マジでたまになんだけどさ。スナイパーじゃないあたしってどんな風になってたんだろうって、そんなことを考えちゃうんだよね」
 呟いた。
 呟きながら、マーガレッタにというよりも、床に向かって語りかけているみたいだと、そんなことを思った。
 ううん。
 違うな。
 あたしはきっと、自分に向かって語りかけているんだ。
 マーガレッタは、相変わらず真顔で、じっとあたしの顔を見つめている。
「ひらひらの服着てさ。お化粧なんかしちゃったりして。プロンテラの街を歩きながら、露店を見て回って――」
 言いながら、ふっと頭の片隅で、やばいなあ、と思う。
 どんどんと自分の心がささくれ立っていくのを、あたしは感じていた。
 自分の言葉で、自分自身を傷つけている。
 でも、止められない。
 止められなかった。
 あたしの中で、何かのスイッチが入ってしまったようだった。
 こんな話題、もうやめたほうがいい。
 それは分かっているのに、心のどこかで、もっと深く傷つくことを求めている自分がいる。
 まるで、母親がそっと優しく手を差し伸べてくれるのを、できるだけ惨めに泣き叫びながら待っている子供のようだと、あたしは思った。
「いつか、いい人と恋に落ちて、結婚して。エプロンつけて若妻しちゃってさ。そうして子供ができて。きっとマジ可愛いだろうなーって思う。あはは、バカみたいだよね、こんなガキみたいなこと言っちゃって」
「――――」
 マガレは何も言わず、ただあたしを真剣な眼差しで見つめている。
 こいつは、いつだってそうだ。
 あたしのどんな一言も、全て洩らさすに、きちんと聞いていてくれる。
 ということは、やっぱり、あたしはマーガレッタに聞いて欲しくて、こんなことを言ってるのかもしれない。
「でもさ、どんだけ想像しても、想像できないんだよね。そんな自分がさ」
「想像しても、想像できない?」
「何つったらいいのかな。色んな想像しても、そこの中心に自分がいないの。そこだけぽっかり空いてるっていうか」
「――――」
「あたしの『イフ』じゃなく、誰かの『イフ』になっちゃうんだよね。なんかもう、女の子してる自分ってのが、自分とは完全に違う存在としてしか想定できなくて」
 無理もないけどね、といってあたしは苦笑した。でも、上手く笑顔が作れたかどうかは、自信がなかった。
 思えば、女の子らしさとは無縁の生き方をしてきた。
 今だって、可愛くない奴だと人からよく言われるし、自分でもそのとおりだと思う。
 でも、それに不満があるわけでもない。
 だって、そんなもの、あたしにとって何の価値もないから。
 あたしが生きていくために必要だったもの――
 それは、強さだった。
 初めて弓を持ったのは、いつだっただろう。
 幼かったあたしがどうして弓を選んだのか、あたし自身もわからない。ただなんとなく、自分に合っていそうな気がしたという、その程度のことなんだと思う。
 でも、その時のあたしの直感は、あたっていた。
 あたしには才能があった。弓の、つまり弓矢で戦うことへの才能が。
 親も兄弟もいない小娘が、ひとりぼっちで生き延びていくのに、それはとても幸運なことだった。あたしには存在価値があったのだ。戦士としての価値が。
 当時の社会情勢も、あたしに味方した。
 魔物たちの突然の凶暴化と、爆発的な増殖――
 今でこそようやく落ち着いたけれど、当時の混乱はすさまじいものだった。国政はほぼ麻痺状態に陥り、治安は最悪のレベルまで落ち込んだ。そんな中で、優秀な戦士は、いくらでも需要があったのだ。
 もっとも、そんな状況じゃなければ、あたしのように親の顔も知らない子供が大量に生み出されるということも、なかったのかもしれない。
 そう考えると、運命というのは皮肉なものだと、つくづく思う。
 あたしが入ったギルドは、ある市街区の自警団めいた活動をしていた。治安の維持と、侵入してきた魔物どもの撃退が、そのギルドの主要な活動内容だった。
 あたしは何かに取り憑かれたみたいに、無我夢中で戦い続けた。
 戦うこと。
 戦って、己の強さを証明すること。
 それが、それだけが、あたしの存在理由だったから。
 強くならなければ、生き残れなかった。
 強くなければ、生き残る価値がなかった。
 熱に浮かされたような日々だった。
 多い時には、一日で数百の魔物を射殺したこともある。
 途中で矢が足りなくなって、足元に転がる屍体に刺さっていた矢を引き抜いて、もう一度射った。その時に浴びた返り血の粘つく生温かさを、今も覚えている。
 ふと気がついた頃には、ギルドの中で、あたしは欠かすことのできない戦力となっていた。
 ううん、ギルドの中だけじゃない。
 もはや、そこら一帯で、スナイパーのセシルという名を知らない者はいなかった。
 誰もが、あたしの力を認め、あたしに一目置く。
 あたしは、誰よりも強くなった。
 その強さで自分の居場所を手に入れ、そして、その代償として、女としてのあたしを捨てたのだ。
 そのことに、悔いはない。
 その生き方を選んだのは、あたし自身なんだから。
 でも――
 どうして、こんなにも、胸が苦しくなるんだろう。
 気が付くと、マーガレッタの手のひらが、あたしの頬をそっと撫でていた。
 柔らかな、心地よい感触。
 ぽつり、ぽつりと、雫が床に落ちる。
 いつの間にか、泣いていたらしい。
「セシルちゃんは、可愛いですわ」
 微笑みながら、マガレが言う。
 いつもなら、なんてことのない一言のはずなのに。
 その言葉は、まるで魔法みたいに、あたし中にぽっと温かなものを灯した。
 あたしは、ぐい、と目尻を拭って、顔をあげた。
「……ほんとに?」
「ええ。セシルちゃんほど可愛い女の子はいないですわ」
「ふ、ふん。あんたに言われても、ねえ。でもまあ――」
 ありがとう、とは言えなかった。
 ふわり、といい匂いがして、次の瞬間、柔らかな感触が唇に触れた。
 マーガレッタの唇が、あたしの唇をふさいでいた。
「んっ……!」
 一瞬びっくりしたけれど、嫌な気はしなかった。
 あたしは目を閉じ、ふっと肩の力を抜いた。
 オーケーのサインのつもりだった。
「んふ……ちゅっ……ちゅ……」
 それは、マーガレッタにも伝わったらしい。
 マーガレッタは、甘噛みするように何度もあたしの唇をついばんだ。
 お互いの吐息が顔をくすぐる。
 触れ合う唇の、心地よい温度。
 頬を撫でていた手のひらがすっと首筋の後ろに回され、あたしはぎゅっとマーガレッタに抱き寄せられた。
 唇をそっと割り広げ、マーガレッタの舌先が滑り込んできた。
「んむぅ……は……ぁ、ちゅっ……んく」
 マーガレッタの舌は、唇以上に柔らかかった。
 その舌が、あたしの口内を、撫でるように舐めまわしていく。
「んはっ……ぁ、れる……れるぅ、んんっ……」
「んんむ……ちゅぱっ、ちゅく……んんふ……ぅ」
 あたしも舌を伸ばした。お互いの舌先が触れ合い、唾液が混ざり合う。ふと、今って、マーガレッタがあたしの舌を舐めてるのかな、それともあたしがマーガレッタの舌を舐めてるのかな、なんてことが頭の片隅に浮かんだ。
 その思いも、キスの味に溶けていく。
「ちゅくっ……んぅ……む、はぁ……」
「ちゅぷ……くちゅるっ、ちゅ……」
 ぴちゃぴちゃと、互いの唾液を啜りあう。不思議なもので、普段なら汚らしいと思うはずのそれが、今はかけがえのない愛しいものに感じられた。
 触れ合う唇と、絡み合う舌。
 体じゅうの感覚が、全部そこに集まったみたいで、全身がとろけていく。
 あたしの体を抱きとめているマーガレッタの腕がなかったら、本当にその場にくずおれてしまいそうだった。
 そうやって、どれだけ互いの唇を貪っただろう。
「ぷは……ぁ」
「んっ……ふぁ……」
 ようやく、あたしたちは顔を離した。
 濡れた唇に触れる空気が、やけにひんやりと感じられた。
 すぐ近く、互いの息がかかりそうなほどの距離で、あたしはマーガレッタと見つめあった。
 改めて見るマーガレッタは本当に美人で、まるでお人形さんのようなその容姿に、同性ながら見惚れてしまう。
 すべすべの白い肌。
 吸い込まれそうな、コバルトブルーの瞳。
 ゆるくウェーブのかかった、ブロンドの髪。
 スタイルだって、身長こそあたしの方が上だけど、他は全部マーガレッタのほうに軍配があがる。
 ああ、ほんとに、あたしもこんな風だったらなあ。
 そんなことを思っていると、ふいに、
「ふふ」
 と、マーガレッタが笑った。
 その笑顔があんまりにも魅力的だったものだから、あたしは思わずどきりとしてしまった。
「セシルちゃん、私の顔に何かついてますか?」
「あ、ううん、別に」
 あたしは慌てて首を振った。もし、今の胸の高鳴りを聞かれていたらどうしよう、と心の中で冷や汗が流れる。
「そ、それよりもさ。その、ありがとね。お陰で落ち着いたわ」
「いえいえ。こちらこそ、ご馳走さまでした」
 と、マーガレッタはにっこり微笑み、
「――でも、珍しいですわね。セシルちゃんの方から甘えて来るなんて」
「うぐ。まぁ、確かに」
 珍しい、か。
 言われてみれば、実際、あたしらしくもない。
 うじうじ悩むのもそうだし、その中身にしたって、女の子らしさがどうだとか、普段のあたしなら考えもしないことだ。
 はて。
 そもそも、あたしはどうして落ち込んでたんだっけ?
 うーん、と少し考えて、
「あーっ!」
 と、あたしは思わず声をあげた。
「……セシルちゃん、人の耳元で叫ぶのはよろしくないですわ」
「あ、ごめん。それよりも、思い出したわ。あいつよ、あいつ。エレメスの奴」
「はて、ガイルさんがどうかなさいましたか?」
「さっきハワードのとこに行ったらさ、そこにあいつもいたの。んで、あいつ、あたしが頼んでおいた武具を受け取るの見て、相変わらず色気のないものにしか興味ないのな、なんて言いやがるのよ」
「はあ……、それは」
「ううん、それだけじゃないわ! あいつ他にも『ま、セシルはスナイパーになるために生まれてきたようなもんだからな。ほれ、特にその胸とか』なんて、ふざけたこと言いやがって。ひっどいと思わない?」
 言いながら、あたしの中に、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。
「あーもう、思い出したらムカついてきた! まったく、あいつ、今度会ったら蜂の巣にしてやるわ」
「――――」
 マーガレッタの返事はなかった。
 そこで、ふとあたしは、マーガレッタの様子がおかしいことに気がついた。
 マーガレッタは、きょとん、とした顔で、あたしの方を見つめていた。
 口元は、半開きのまま固まっている。
 驚いているようにも見えるし、呆れているようにも見える。
「マガレ?」
「――え?」
 はっと我に返ったように、マーガレッタが声を洩らした。
「どうしたの、いきなり魂抜けたみたいになっちゃって」
「ああ、いえ、すみません」
 と、マーガレッタが相好を崩す。
 優しく包み込むような、いつもの見慣れたマーガレッタの微笑み。
 ほっ、とあたしは胸を撫で下ろした。
「珍しいわね、カトリならともかく、あんたがボーッとしてるなんて。何か考えごとでも――」
 言いかけたあたしの体を、マーガレッタがいきなり押し倒した。
「きゃっ!?」
 不意を突かれたあたしは、そのままマーガレッタに組み伏せられた。
「ふふ。セシルちゃん、油断しましたわね」
「くぅ……」
 仰向けになったあたしの顔のすぐ近くに、不敵に微笑むマーガレッタの顔があった。
 獲物を捕らえた肉食獣が、ちょうどこんな雰囲気かもしれない。
 肉食獣。マガレならきっと猫科だよね、トラかな、ライオンかな――なんて、今のこの状況とは全然関係のないことに思考が飛ぶ。現実逃避ってやつだろうか。
「まさか、キスだけで終わりだなんて、そんな虫のいいことは考えていませんわよね」
「あはは、実はちょっと考えてたけど……ダメ?」
「ええ、ダメですわ」
 にっこりと笑いながら、きっぱりと言われてしまった。
 うう。
 まあ、そうなるだろうなって薄々は思ってたし、覚悟はしてたんだけど。
 あたしの上に、マーガレッタの体が覆い被さってきた。
「んむっ……ぅ」
 唇がふさがれる。
 今度は、すぐに舌が入り込んできた。
 あたしもそれに応える。
 さっきまで、夢中でお互いの舌を絡め合っていた時の、ふわふわした興奮がまだ残っていた。それが種火になって、すぐにあたしの中に大きな炎を燃え立たせる。
「ちゅっ……ちゅう、くちゅっ……」
 互いの唇を吸う音が、耳に届いてくる。
 口の中を舐め合い、舌を触れ合わせる音が。
 静まり返った部屋の中、その音はひどく大きく響いているような気がした。それを恥ずかしいと思っているのに、その一方で、ぞくぞくと身震いするような興奮が湧き上がってくる。
「んちゅ……ちゅっ、ちゅく……」
「んむぅん……はぁ……んむ、れるっ……れる」
 ねっとりとしたキスを交わしながら、マーガレッタがあたしの服のボタンを外していく
 ぽぅっとした頭の片隅で、器用な奴だなー、なんてことを考えた。やっぱり、女の子の服を脱がし慣れてるからだろうか。
「んっ……!」
 胸元がはだけられ、上ずらせたブラの内側へマーガレッタの手のひらがもぐり込む。あたしの、正直あんまり大きいとは言えない胸をふにふにと優しく揉みながら、マーガレッタがあたしの耳をそっと甘噛みする。くすぐったいような、気持ちいいような、不思議な感じ。でも、キライじゃない。
「はぁんっ……ぁ……」
 先端をきゅっとつまみ上げられ、甘い痺れが体を走り抜ける。
 もう片方の手が、するりと脚の間に滑り込み、指先が下着越しにあたしの大切な場所をなぞってゆく。
 腰が、意識せずもじもじと動く。
 マーガレッタに触れられた中心から、自分でも分かるくらいに、熱いものが溢れ出してくる。
「んんっ……はぁ……んぁ、あっ……ん、マガレぇっ……」
 ダメだよ、このままじゃ、ぱんつ汚れちゃう。
 そう思いながら、それは言葉にならなかった。
 もっと、もっとって、体が求めてとまらない。
 マーガレッタの舌先が、ちろちろと、あたしの耳の穴をほじくるように舐めまわしている。
 ぴちゃぴちゃという音が頭の中で響いて、まるで頭の中を直接舌でかき回されているみたいだった。
 脳がとろけて、思考が停止していく。あたしの体から重さがなくなって、ゆらゆらと波間を漂うクラゲにでもなったような気分。
「ひゃぅっ……ん!」
 ふいに、たっぷりの唾液で濡れた耳元に、ふぅっと息を吹き込まれた。その冷やっこさが、あたしを現実に引き戻し、思わず裏返った声が洩れた。
「ふふっ、可愛い声」
 あたしの反応に、マーガレッタが満足そうに笑みを浮かべる。
 うう。
 こういう時のマガレは、ほんと意地悪っていうか、容赦がない。
 なんていうか、完全に主導権握られちゃってる感じ。
「さあ、セシルちゃん。ばんざーいしましょうね」
「んもう、自分で脱げるわよ」
「だーめ、ですわ」
 言いながら、ブラごと上着が持ち上げられていく。
「はい、ばんざーい」
「うう。わかったわよ。すればいいんでしょ、すれば」
 しょうがなく、両手をあげる。マーガレッタは嬉しそうにするするとあたしの服を抜き取ると、きっちり丁寧に畳んでから、ぽふ、と横に置いた。あたしなんかは普段でも適当に脱ぎ散らす方なんだけど、マガレはこういうとこ変に行儀がいいというか、いつまでもお嬢様気質が抜けきらないなーって思う。
 上半身すっぽんぽんにされた次は、ホットパンツに手がかけられた。
「あの、下は自分で脱ぐから……って、わけには」
「いかないですわ」
「ですよねー」
 とほほ、と溜息をひとつ。
「さ、セシルちゃん。腰浮かせて」
 言われたとおりに腰を浮かせる。するりとホットパンツと下着が膝まで下ろされ、露わになった素肌にひやっと空気が触れる。
 それにしても、こうして仰向けにされながらパンツを脱がされていると、なんだか、自分が子ども扱いされてるような気がして、妙に恥ずかしい。
 マーガレッタは、ニコニコしながらあたしのパンツを下ろしていく。まったく、ひとの服を脱がすのが楽しいなんて、こいつ実はヘンタイじゃないだろうか。
 マーガレッタも、いそいそと自分の服を脱いでいく。
 露わになっていくマーガレッタの体を見つめながら、ちょっと嫉妬する。肌なんかすべすべだし、ぷにぷにと柔らかそうだし。
 その中でも特に気になるのは、やっぱり胸だ。
 カトリーヌもそうだけど、魔法を使う人たちって、胸が膨らむ傾向でもあるんだろうか。豊富なSPは、あそこから供給されてるとか。
 それとも実は、あたしが知らないだけで、巨乳になる魔法とかが存在するんだろうか。
「ふふ。セシルちゃん、私の胸が気になりますか?」
 あたしの視線に気付いたマーガレッタが、四つん這いの姿勢であたしの上に覆い被さる。仰向けのあたしの目の前で、豊満な二つの膨らみが、ぷるん、と揺れた。
「ほら、触ってくださいな」
「あ……うん」
 おずおずと手を触れる。
 うわ、柔らかい。
 柔らかくて、温かくて、触ってるとなんだか幸せになれそうな感じ。
 こうしてマーガレッタの胸を触るのも、もちろん初めてのことじゃない。
 でも、やっぱりこの柔らかさには、毎度ながら驚かされる。力を入れたら、どこまでも際限なく指が肉の中に沈みこんでいきそうな気がしてしまう。
「あン……は……ぁ、セシルちゃん……」
 あたしが指を食い込ませるたびに、マーガレッタが切なそうな声を洩らす。
 強く揉んだり、優しく揉んだり。
 指先の微妙な力加減の違いで、マーガレッタの反応が多彩に変わる。
 唇から洩れる声だって、ある時は天上のソプラノだったり、ある時は渋みのあるウッドベースだったり。
 まるでマーガレッタの肉体がひとつの楽器になって、あたしの指先で色んな音色を奏でていくみたい。
 あたしの中に、沸々と、ある欲求が湧き上がってくる。
 あたしは別に、マーガレッタと違って、女の子が好きっていうわけじゃない――と思う。でも今は、もっとマーガレッタの色んな声が聞きたい。あたしで感じて欲しい。
 あたしは頭を持ち上げ、マーガレッタの乳房を口に含んだ。
「んくぅんっ……!」
 と、マーガレッタが背筋を仰け反らせる。
 はむはむと唇で優しく噛み付きながら、舌先を小刻みに揺らして乳首を舐る。
 二つの突起はすぐにぷっくりと硬く膨らみ、あたしは唾液をたっぷりと絡ませ、じゅるるっと音を立てて吸い付いた。
「ふぁぅっ……んん!」
 マーガレッタが肩をすくませ、ぞくぞくと体を震わせる。
「んむっ……ちゅう、じゅるるっ……」
 強く吸い付いて、コリコリと唇で甘噛みする。先端をみっちり弄んでから、今度は優しく労わるように、全体をぺろぺろと舐めまわす。マーガレッタは甘い吐息を洩らして、あたしの身体をぎゅっと抱きしめた。
「はぁんっ……ぁ、うふふっ……セシルちゃんも、随分とテクニシャンになってきましたわね」
 うぐ。
 確かに、昔のあたしは、こんなことしなかったような。
「……あの、それって、喜んでいいのかしら」
「あら、私は大喜びですわ」
 言いながら、マーガレッタがあたしの胸にちゅっと口づける。
「んっ……!」
 唇が肌に触れ、舌先が乳輪の周りをなぞっていく。いつの間にか、あたしの乳首もマガレに負けないくらい、ツンと硬く尖っていた。
 マーガレッタがそれを口に含み、あたしがしたのと同じように、きゅっと強く吸いながら甘噛みする。
「ひぁっ……つ……ぁ!」
 たまらず、裏返った声があたしの口から洩れた。
 同時に、脚の付け根に伸びたマーガレッタの手が、くちゅうっとあたしの秘所に触れた。
 そのまま、指先がねちゅねちゅと肉襞の隙間を往復する。
「んんっ! あ……ひぅんっ……くぅんっ……!」
「ふふっ。セシルちゃんのここ、すごいヌルヌルになってますわ」
「ばかぁっ、そんなのっ……言わな……ひあぅ!」
 かぁあっと自分の顔が火照るのが分かった。ううう。やっぱりこいつって意地が悪い。
「んー……」
 つうぅっ、とマーガレッタの舌が肌の上を動き、途中でおへそをくすぐったりしながら、ゆっくりと這い下りていく。
 マガレの息が、ふわっとあたしの茂みを揺らし、舌先がさらに下へと移動していく。
 両足がぐぅっと広げられ、その中にマーガレッタが顔を埋めた。恥ずかしさに足を閉じそうになるのを、必死に我慢する。
 ああ――。
 マーガレッタの舌が触れた瞬間、あたしの身体に、びくんと電流が走ったような気がした。
「れるっ……れろぉ、んっ……ちゅ……じゅるるっ」
 ああ。
 マーガレッタが、あたしの――にキスしてる。
 マーガレッタの舌が、あたしの――を舐め上げている。
 ダメ。こんな――汚いよ、ダメだよ。マガレの綺麗な顔が汚れちゃうよ。あたしの――、あたしが溢れさせている、いやらしい樹液で。
 そう思うのに、止められない。
 ううん。止めたくない。
「ふぁあっ……ぁ! あっ……んくっ……ぁ!」
「んふっ……ちゅく……ぢゅぷっ、んぷっ……ちゅく」
 淫猥な音を立てて、マーガレッタがあたしの秘部を唾液と淫蜜でぐちょぐちょにしていく。舌がまるで独立した生き物のようにうねうねと動き、あたしの中に潜り込んでかき回す。
 ああもう、やっぱりコイツ上手いよ。気持ちいいよ。
 快感が、あたしを埋め尽くしていく。
 頭の中で渦巻いている色んなものが、マーガレッタの舌がもたらす甘い痺れに上書きされていく。
「マガレぇっ……マガレっ、んぁっ……ぁ! はぁぁあんっ……!」
 もっと、もっと。
 世界が消えていく。あたしとマガレだけになっていく。
 いつの間にか、あたしの腰がいやらしく動いていた。羞恥心なんてものは遠く彼方に吹っ飛んでしまってる。今はただ、このとろけるような快感に溺れてしまいたい。
「ふぁっ……ぁ、あぁぁあっ……!」
 さざなみのように絶頂の予感が押し寄せてきた。それはすぐに巨大な津波となって、あたしの思考の一切をかき消すように全身を駆け巡った。
「いっくぅ……、マガレぇっ! いっちゃぅっ……あぁぁあぁっ!」
 叫びながら、あたしの身体がびくんっと大きく跳ねた。
「んぶぅっ……んんむっ、じゅるるっ……れるぅ、れるっ……」
「ひぁぁあっ……ぁ! あぁああッ……んく……ぁ!」
 なおもマーガレッタが送り込む快感が、あたしを何度も絶頂に押し上げる。
 ガクガクと身体が震えて、意識が飛びそうになる。ううん、あたしが気づいてないだけで、実際は飛んでたのかもしれない。
「んっ……ぷはぁ……」
 マーガレッタがようやく口を離した。
 口元が、べっとりと愛液で濡れていた。
 体を起こしたマーガレッタは、満足そうに舌なめずりして、それを舐め取った。
「ふふ。セシルちゃん、可愛かったですわ」
 あたしは余韻にぼんやりした頭で、それを見つめていた。
 起き上がろうにも、体に力が入んないし。なんかもう全身がぐんにょりと骨抜きになった感じ。
「あー……、うー……」
 わたわたしてるあたしを見て、くすっとマガレが微笑む。
 マーガレッタも、あたしの隣にぽふっと横になった。
 さっきまでの名残が引くにつれて、汗ばんだ肌が、ひんやりと冷えてきた。マーガレッタも同じなのだろう。あたしたちは、どちらともなく体を寄せ合った。
 触れ合う肌の温もりが、心地よかった。
「……あふ」
 と、二人してあくびを漏らす。
「セシルちゃん。今日は、このまま寝てしまいましょうか」
「ん……でも、マガレはまだいってないでしょ?」
「ふふっ。私は、セシルちゃんが満足したのなら、それだけで充分ですわ」
 うう。
 マガレはそう言うけれど、やっぱりなんだか申し訳ない。
 でも、申し訳ないと思いつつ、あたしはもう動けそうにないくらいの眠気に襲われていた。
「うー、じゃあ、その言葉に甘えさせてもらうわ」
「はい」
 目を閉じる。
 マーガレッタの手のひらが、あたしの頭をそうっと撫でた。
 なんだろう。
 ほっとする、この感じ。
 あたしはお母さんの温もりなんて知らないけれど、もしかしたら、それはきっと、こんな感じなのかもしれない。
 ふっと、聖母という言葉を思い出す。ああ、そういえばマガレって、聖職者だったっけ。およそ貞淑とはいえない普段の言動で、ついつい忘れちゃいそうになるけれど。
 あたしは半分眠りかけた頭の片隅で、そんなことを思った。
「大丈夫。セシルちゃんはとっても可愛いですわ。だから、いつかきっと、幸せになる日が来ます」
 あたしの髪の毛を、そっと指で梳きながら、マーガレッタが呟いた。
「ん……、ありがと」
「ふふっ。でも、ちょっと鈍いところが欠点ですわね」
「鈍い? あたしが?」
「ええ」
「んぅー、そうかなあ……」
「そうですわ。自分の気持ちになかなか気がつかないところとか」
「あたしの、気持ち?」
「ええ。例えば、セシルちゃんがさっきまで不貞腐れたり悩んだりしてた理由」
「だから、それは、エレメスの奴が……」
「ううん。それはきっと、相手がガイルさんだから、ですわ」
「はあ? どーいうことよ、それ」
 あたしは重い目蓋を持ち上げ、薄目でマーガレッタを見た。
 でも、マーガレッタはあたしの問いには答えず、ふふっと微笑んだだけだった。
「……もう。ワケ分かんない」 
 と、あたしは再び目を閉じた。
「気づいてないのは、自分の気持ちだけではないのですけどね」
「んむ、何か言った?」
「いえ、なんにも」
「そう……むにゃむにゃ」
 眠りに落ちるところで、何か柔らかなものが、ちゅっとあたしの額に触れたような気がした。


 了