Hip Tip Milky Cherry

  1/


「なぁ、イレンドってオナニーすんの?」
 いきなりそう訊かれ、イレンド=エベシは飲みかけた紅茶を吹き出した。
「ななな、何を突然言い出すんだよっ!」
 慌てて口元を拭いながら、周囲の様子をうかがう。だが、イレンドたちに注意を向けている者はいないようだった。
「何をって、だからオナニーだよ。自分でチンコ弄るアレ」
 あっけらかんと、カヴァク=イカルスは言った。
「ひ、非常識だよっ。こんなところで、い、いきなりその、……の話とか」
 オナニー、という言葉を、イレンドはほとんど消え入りそうな声で呟いた。
 その顔が、耳まで真っ赤になっている。
 ここは、レッケンベル社内にある、生体研究所の食堂――
 広々とした室内に、長机がいくつか並べてあり、安っぽい木製の椅子が乱雑に置かれている。
 かつては、多くの研究者たちが食事をとっていた場所である。残されたメンバーたちには持てあます広さだったが、そのお陰で特に席順など堅苦しい決まりもない。今も、仲の良いメンバー同士で適当に固まって、気楽な昼食時間を過ごしている。
「あー、確かに気になるな、それ」
 ラウレル=ヴィンダーが、自分の食事を乗せたトレイを長机に置きながら、カヴァクの隣に座った。
「だろ? コイツとあんまそーゆーハナシしねぇし」
「そ、そういう話って……、普通、他の人とはしないんじゃ……」
「んー、そうか? ラウレルとはよくオカズの融通しあったりとかすっけどなぁ。コイツ、こう見えて相当エロにはこだわりあんだぜ。服は半脱ぎがイイとか色々マニアックな」
「てめーだって、おっぱいにやたらうるさいだろうが。あれだろ、姉ちゃんがまな板だから、おっぱいに餓えてんだろ」
「ちげーよバカ。つーか、おっぱいスキーはむしろお前の方じゃねぇか」
「おっぱいの嫌いな男子なんていません」
「はっはっは、そりゃそーだ」
 カヴァクとラウレルが笑いあう。一方で、イレンドは俯いて黙り込んだまま、手元のスープをスプーンでくるくる掻き混ぜているばかりであった。
「ああ、オカズと言えばラウレル、こないだ貸したアクビのアレ、いい加減返せよな」
「いいけど、なんか代わりに寄こせよ。新しいのねぇの?」
「スピカの触手ストーリーってのなら手に入ったが」
「うげ、触手ものかよ。やっぱおめーの方がマニアックじゃねーか。マジ引くわぁ」
「バーカ、騙されたと思って見てみろって。後半入って途中のさー、触手を口いっぱいに頬張った顔んとこが最高にエロいんだわ」
「マジで?」
「おう。俺は五回は抜いたぞ」
「うっわ、昨日お前の部屋行った時にイカ臭えって思ったのはそれか」
「バーカ、てめえの部屋の方が臭ぇっての。で、どうする、おめーがいらないって言うんなら、イレンドに先に貸すけど」
「はぅあっ!?」
 突然自分の名前が出てきて、イレンドはばね仕掛けの人形のように顔をあげた。
「どどど、どうしてそこでボクなのさっ!」
「いや、だって、お前だってズリネタくらい必要だろ? いくら神に身を捧げたアコライトって言っても、溜まるモンは溜まるだろうしな」
 とカヴァク。
「い、いや、ぼぼぼ、ボクはっ……」
 どもるイレンドに対して、カヴァクがジト目を向ける。
「イレンドさぁ、まさかと思うけど、お前――」
「な、なにがまさかなのっ!?」
「俺たちの知らないところで、誰かとイイコトしてんじゃねーだろーな?」
「い、いいことって……」
「気持ちイイコトに決まってんだろーが。おセックスだよ、おセックス」
 カヴァクが左手の親指と人差し指を合わせて輪を作り、右手の中指を突き立ててひょいひょいと出し入れして見せた。
「なななっ、せせせ、せっく……」
 その先を声に出すことができず、イレンドが口をぱくぱくさせる。その顔から、ぷしゅーっと湯気が上がった。
 それを見て、カヴァクは安堵したようにほっと息を吐いた。
「その様子じゃやってねーみてーだな。いやー安心した、イレンドに先に童貞捨てられたらどーしよーかと思ってた」
「お前、こないだからソレばっか言ってんのな。そんなに気になんのか、他人の童貞が」
 やれやれ、とラウレルが苦笑する。
「うるせー。お前だって気になるだろーが。ちっくしょー、あーもう、やりてぇなー、マジで」
 カヴァクがぼやきながら椅子をガタガタと揺らす。それをおいやめろ馬鹿スープがこぼれるとラウレルが怒り、カヴァクは机の上にべったり倒れ込んだ。
「なーイレンド、お前の姉ちゃんとか、土下座して頼み込んだらやらしてくんねーかなぁ。どうよ?」
「どどど、どうよって、無理だよそんなのっ!」
 イレンドはそう言って、ぶんぶんと首を振った。
「つーかさ、やる、やらないの前にまず、彼女作らねーと無理だろ」
 ラウレルが囓ったパンをスープで流し込みながら言う。
「そこなんだよなー、マジで」
 カヴァクがパシッと自分の額を手のひらで打った。
「誰か好きな奴とかいねーの? ウチの女子は相当レベル高ぇと思うけど」
 と、ラウレルが訊ねる。
「レベル高いのは認めるけどよ。うーん、タイプかって言われたら、違うんだよなぁ」
 カヴァクは首を振った。
「あーあ。どっかにこう、胸のときめくような出会いが転がってねーかなぁ。こう、出会った瞬間に恋に落ちる、みてーな」
「はいはい、夢は寝てから見ろよ」
「うるせー馬鹿。おめーにゃ俺の浪漫は分かんねーよ」
「分かりたくもねーよ。つーか、さっさと食わねーと昼食時間終わっちまうぞ」
「げ、もうこんな時間かよ!」
 壁の時計を見て、カヴァクが叫ぶ。話の流れについていけず、顔を真っ赤にしてモジモジしていたイレンドも、さすがに慌てて残りの食事に取りかかった。
 そんな二人を見つめながら、先に食べ終えていたラウレルが、ぼそりと呟いた。
「そういやさ、最初の疑問がまだ解けてなくね?」
「んんふ? はいふぉのひもん?」
「口に食い物詰めたまましゃべんな。……アレだよ、結局、イレンドってオナニーしてんのか?」
 と、ラウレルが蒸し返す。
 元に戻っていたイレンドの顔が、再び、かぁああっと赤く染まった。
「そりゃーするだろうさ。なっ?」
 カヴァクがポンポンとイレンドの肩を叩いた。
 それにつられたのか、イレンドは小さく、こくり、と頷いた。
「ホラ、やっぱりなー。じゃあ今度是非オカズの交換会といこうぜ。こんなとこじゃエロネタ仕入れるのも大変だしよ。限りある資源は有効に使わなきゃな!」
「交換会って……そ、それはっ、その」
「あー、それ俺も興味あるわー。イレンドってどんなの好きなんだろうな。巨乳系? それともロリ? あるいは人妻モノとか?」
「はぅううっ、ど、どんなのって……そ、そんなのっ……」


  2/


 ……言えるわけない、よね。
 ふと先日の会話を思い出して、イレンドはそう思った。
 イレンドのすぐ目の前に、女アコライトの衣装に身を包んだ少女が立っていた。
 切なげにも見える瞳は熱く潤み、情欲にその身を焦がしているのが分かる。
 少女の手が、自らのスカートの中に潜り込み、股間の部分をもぞもぞとまさぐっていた。ぞくぞくと背筋を走る快感に、少女の顔がとろけたように恍惚となる。
 それを見つめながら、イレンドの呼吸も荒くなっていく。
 ペニスに熱いものが流れ込み、むくむくと膨らんでいくのが分かる。たまらずそれを握り、小刻みに上下にしごきはじめた。
「ぅぁっ……んんっ!!」
 薄いピンク色をした少女の唇から、小さく声が洩れた。同時に、イレンドの口からも。
 可憐な少女は今や、淫らな娼婦のようにスカートをたくしあげ、その透けるように白い肌をさらけ出していた。下着の中に差し入れられた手がせわしなく動き、自らの秘部を弄る。
 少女は鏡の中に立っていた。
 それは、女アコライトの格好をした、イレンド自身だったのである。
 イレンドが着ているのは、姉であるマーガレッタ=ソリンが、かつて修行時代に使っていた服であった。
 そのマーガレッタは今、研究所の巡回に出ている。
 巡回に出れば、数時間は戻ってこない。そのタイミングを見計らって、こっそりと持ち出してきたのである。
 同様のことをするのは、今回が初めてではなかった。
 近頃は、マーガレッタが部屋を空けるたびに、同じことを繰り返している。
 いけないことをしている、という自覚はある。
 見つかったらどうしよう、という思いもある。
 だがそれ以上に、湧き上がる欲求は強かった。いや、罪悪感や背徳感も、自らをさらに興奮させるための燃料になってしまったのかもしれない。
 鏡の中の少女――女装したイレンドの顔が、悦楽に染まっている。リップを引いた唇がわななき、甘い喘ぎを吐き出してゆく。
 カチカチに反り返った肉棒が、フリルのついた可愛らしい下着を、内側から押し上げている。サーカスのテントのようになった布地に、溢れ出したカウパーがシミとなって広がっていた。
 イレンドの手が、その中で、リズミカルに上下している。意識せず腰が円を描いて動き、たくしあげられたスカートの下から覗く下半身が、おねだりをする淫婦のように艶めかしくくねった。
「はぁぁっ……ん! あっ……ふぁっ……!」
 絶頂が近づいてきた。イレンドは目を閉じて、迫ってくる快楽の波濤に身を委ねた。
「あっ……いっ……くぅ、イクぅっ……あっ……ぁ!」
 限界まで高まった波頭が一気にはじけそうになったその時、コンコン、と部屋の中にノックの音が響いた。
「おーっす、イレンド、いる?」
 びっくーん、とイレンドは体を強張らせた。
「こないだ言ってただろ? オカズ交換会って。喜べ、俺のとっておきを持ってきてやったぞ。つーわけで、いるならさっさとドア開けろ」
 ノックの音が激しくなる。今にもドアを勝手に開けそうな勢いだ。
「いいい、いないよっ」
 とっさにそう言ってから、自分の馬鹿さ加減を呪った。いない人間が返事などするわけがない。
 しかしノックの主は、イレンド以上に馬鹿だった。
「そっか、いねーのか。んじゃしょーがねーな」
 なんとそれで納得したらしい。声の主――カヴァク=イカルスは、ドアを叩く手を止めた。
 イレンドは、ほっと胸をなで下ろした。これでこのまま帰ってくれるだろう。
 だがその考えは甘かった。馬鹿は何をするか分からないからこそ馬鹿なのである。
 次の瞬間――
 がちゃりとドアが開き、カヴァクが部屋の中にずかずかと入り込んできた。
「あれ? なんだ、いるじゃん」
「なななっ、なんで入ってくるんだよっ!」
 イレンドは、ずざーっと後ずさりしながら言った。
「いやあ、イレンドが戻ってきた時にびっくりさせよーと思ってさ。この秘蔵特選エロアイテムを部屋中にバラま……」
 カヴァクはそこまで言いかけて、イレンドの方を見たまま固まった。
「そそそ、そんなことしなくていいからっ! 早く出てってよっ!」
「…………」
 イレンドの叫びが聞こえているのか、いないのか。カヴァクは呆けたように口を半開きにさせたまま、じっとイレンドを見つめている。
「ちょっとっ、いつまで見てるんだよっ! お願いだから早く出てって!」
「……わいい」
「は?」
「あ、いや、何でもないです」
 カヴァクは我に返って、ぶんぶんと首を振った。慌てたように、手に持っていたエロ本その他を後ろに隠す。
「とにかくっ! さっさと出てってよっ!」
「ち、ちょっと待った、その前に一つだけ訊かせてくれ!」
「ななな、何をだよっ」
「あー、えーと」
 なにやら急にカヴァクはかしこまり、コホンと咳払いをひとつした。
「あの、俺はカヴァクっつーんだけど、その、えっと、キミの名前は?」
「……はぁっ!?」


  3/


「いやー、まだ信じらんねーわ。その、キミが、イレンド? だなんて」
「人の名前の後ろに疑問符つけないでよ……そりゃ、イレンド(笑)とか言われるよりはマシだけどさ」
 イレンドとカヴァクは、並んでベッドに腰掛けている。
 イレンドはちょこんと背を丸めて、両手を膝の上に乗せている。カヴァクは逆に、両手を後ろについて、ぼんやりと宙を見つめている。
 それはどこか、イレンドから顔をそむけているようにも見えた。
 二人の間に、ぎくしゃくした空気が流れていた。たまに思い出したように言葉を交わすものの、会話が続かない。
「あー……、えっと、その服は?」
「こ、これはその、お姉ちゃんの……」
「ふ、ふーん」
 再び会話が止まった。
 重い沈黙が訪れる。
 時々、ちらっと、カヴァクがイレンドを横目で見る。
 しかし、なにを話せばいいのか、それが分からないようだった。
 先に口を開いたのは、イレンドの方だった。
「……あのさ、カヴァク。そういうのがさ、なんていうか、一番……つらい、んだけど」
「えっ?」
「だからさ、その……ボクのこと、おかしな奴だって思ってるんでしょ? さっきから、目も合わせようとしないし……」
「そ、それは……」
「いいよ。ボクのこと、変態だって思ってくれても。自分でも分かってるし」
「そんなことねーよ!」
 自嘲するように呟いたイレンドに、カヴァクは反射的に言い返した。
「つーか、俺は、お前が可愛すぎて――」
 言ってから、カヴァクはしまった、という風に口元を両手で覆った。
「えっ?」
 イレンドが顔をあげて、カヴァクを見た。
 二人の視線が絡み合った。
 カヴァクの顔が、みるみる赤くなっていく。
「あ、いやっ、その……」
 カヴァクはあたふたしながら、ガリガリと頭を掻いた。
「今っ……なんて?」
「あーっ、もう、可愛いくてマトモに見れねーんだよっ、その、お前のこと」
 ヤケになったように、カヴァクは叫んだ。
「ぼぼぼ、ボクがっ……かかかっ、可愛い……」
 今度はイレンドの顔が、かぁっと赤くなっていく。
「一目惚れだと思ったよ。マジ天使が目の前に降りてきたみてーだった。その、イレンドだって分かった今も、どーしていいかわかんねーくらい……可愛い」
「そそそ、そんなこと言われてもっ……」
 真っ赤になって俯いたイレンドの手に、カヴァクの手のひらが覆い被さった。イレンドは一瞬ぴくりと体を硬くしたが、その手を払いのけようとはしなかった。
 カヴァクが、ぎゅっとイレンドの手を握った。
「や、柔らけーな、お前の手」
「う、うん……」
 イレンドも、そっと握り返す。
 指と指が絡み合った。
「っ……」
 ごくり、とカヴァクが唾を飲み込む。
「あの、さ。イレンド」
「う、うん」
「もっと触ってみたい……いいか?」
「……うん」
 こくん、と小さく、イレンドは頷いた。
 カヴァクはおずおずともう片方の手を伸ばし、イレンドの胸部に触れた。
 もぞもぞと服の上からまさぐるように動かす。
「おっぱい……は無いよな、そりゃ」
 ホッとしたのか、がっかりしたのか、その両方が混ざったような口調で、カヴァクは言った。
「そそそ、それはそうだよっ」
「でも、なんかこう、ちょっと膨らんでるように見えたんだけど」
「それは多分、下着が……」
「下着って、ブラつけてんの?」
「う、うん……」
「ちょっと見せて」
「い、いいけど……」
 イレンドは襟元を引っ張って、首周りに隙間を作った。そこから、カヴァクが胸元を覗き込む。
 これもマーガレッタから拝借したブラジャーは、平らなイレンドの胸には当然合わず、カップ部分は浮いて空間になっていた。だがカヴァクはそのアンバランスさに、むしろ奇妙にそそられるものを感じていた。
「ちょっ、カヴァク、近いよっ。なんか息がかかってくすぐったいしっ」
「あ、うん、ご、ごめん」
 謝りながらも、カヴァクは顔を離そうとはしなかった。白い喉元、鎖骨から肩口へのなめらかなライン。それに吸い込まれるように、カヴァクはイレンドの首筋に顔を埋め、ちゅっと口づけた。
「ひゃっ!?」
 驚いたイレンドがバランスを崩し、二人はそのまま重なり合ってベッドに倒れ込んだ。
 仰向けになったイレンドに覆い被さるように、カヴァクが上になっている。
 すぐ近くに、お互いの顔があった。息が触れそうな距離で、視線が絡み合う。どちらも真っ赤だった。恥ずかしくて目をそらしたいのに、それができなかった。
「うあ……マジやべー、超可愛い……」
 カヴァクが呟く。
「ちょっ、そそそ、そんなに何度も言わないでよっ……」
「だってマジスゲー可愛いもん。俺もうヤバイかも、なんかもう止まんねー」
 カヴァクの視線は、イレンドの唇に向けられていた。イレンドもそれに気づき、ちょっと迷ってから思い切ったように目を閉じた。
「んっ……」
 ちゅっ、と二人の唇が重なった。はじめは触れ合うだけだったキスが、すぐに舌がもぐりこみ、お互いを求め合う激しいものへと変わった。
「ぷぁ……んっ、ちゅ……」
「んむぅ……ちゅく、くちゅっ……」
 不器用な、けれど無我夢中のキス。
 たっぷりと舌を絡め合ってから、唇が離れた。混ざり合った唾液が、二人の間に細い糸を引く。
 覆い被さったカヴァクの体。その腰のあたりから、硬いものがイレンドに押し当たっていた。
 そしてそれは、イレンドも同じだった。
「……イレンドの、当たってる」
「そそそ、それはカヴァクも一緒じゃないかっ」
「なぁ、イレンド、その、俺、したい……」
 じっと目を見ながら、カヴァクが言った。
「…………」
 恥ずかしさに目を潤ませながら、こくん、と小さくイレンドは頷いた。


  4/


 スカートをめくりあげると、白い肌が目に飛び込んできた。華奢な腰つきはまるで本当に少女のようで、フリルのついた下着がよく似合っていた。ただその布地を押し上げる膨らみだけが、イレンドが少女ではないことを物語っている。
「ちゃんと下もはいてたんだな」
「う、うん……」
 下着を脱がす。押さえられていたイレンドのものが、ぷるんと勢いよく飛び出してきた。
「あれ、お前……」
 カヴァクが驚いたような声をあげた。はちきれんばかりに膨らんだ、イレンドのペニス。その根本にあるはずの茂みがなく、つるりとした肌が広がっていたのである。
「これ、剃ったの?」
 こくん、とイレンドが頷く。
「はぅう、へ、変……かな?」
「いや、なんか、すげぇ興奮する」
 カヴァクはしげしげと、イレンドの股間を見つめた。その視線にくすぐられて、イレンドがもじもじと落ち着かなさそうに腰をくねらせる。
「なぁ、触っても、いい?」
「だだだ、ダメって言っても、どーせ触るんでしょっ」
 ぷい、とそっぽを向くイレンド。その仕草が可愛くて、カヴァクは思わず口元がにやけそうになった。
 そっと手を触れる。
「イレンドの、すげぇ硬くなってる」
「んっ……!」
 イレンドの体が、ぴくんと震えた。カチカチに膨れたそれは、先端から溢れたカウパーでぬるぬると濡れ光っていた。
 軽く握って動かす。
「は……ぁぅ! んっ……くぅんっ」
 イレンドの腰が悶えるように動き、官能を含んだ甘い吐息が唇から洩れる。
「イレンド、気持ちいいんだ?」
 ぎゅっと握ったまま、くにゅくにゅと揉む。もどかしそうに、イレンドの腰が動いた。
「んぁっ! はぁっ……ん!」
「言って。聞きたい、イレンドの口から」
「あ……っぅ、きもちっ……いいっ……」
「感じてるんだ、ここ?」
「うんっ、そこっ……あっ……ん」
「言って。イレンドのどこが気持ちいいのか」
「ふぁあっ、ボクのっ……お、おちんちんっ……きゅぅううんっ!」
 イレンドの声が、ひとまわり高くなった。
 カヴァクが、イレンドのものを口に含んで、吸い上げるようにしゃぶりついたのである。
「んっ……ふ、ちゅぱっ……れるっ」
「あぁぁぅ! ふぁっ……ぁ!」
 ぞくぞくとイレンドの体が震え、頬張ったペニスがびくびくと口の中で跳ねた。唇や舌先のほんの僅かな動きで、イレンドの声から溢れてくる甘い喘ぎに旋律が加えられる。カヴァクはその反応を楽しむように、夢中でそれを舐め回した。
「ぺろっ、ちゅぱっ……んむ、んぐっ……」
「は……ぁっ、あぁっ……ん!」
 イレンドが腰を浮かせ、駆け巡る快感に悶えるように腰をくねらせた。潤んだ目から溢れた涙が、目尻にきらきらと輝く。
 ぷはぁ、とカヴァクが口を離した。
 ぐい、とイレンドの膝を持ち上げ、広げた両脚の間に自分の体を割り込ませる。
 不安げに見上げたイレンドに、カヴァクは言った。
「大丈夫、その、優しくするから」
「……うん」
 カチカチになった自らのものを握りしめ、先端をぐりぐりと押し当ててイレンドのアヌスを探る。
「んっ……ここ、かな?」
 ぐぅっと腰を押し込む。きゅっと閉じた肉穴を押し広げて、硬く膨らんだ先端がその中へと潜り込んだ。
「んんぅううっ……はぁぁあっ……んぁ!」
 ペニスが心地よい温度に包まれていく。それは今までに感じたことのない、未知の快感を伴っていた。
「うわ、すっげ……、なんか、吸い付いてくるみてーにっ……」
 根本まで咥え込ませ、カヴァクはぎゅっと歯を食い縛った。気を抜いたら、その瞬間に射精してしまいそうだった。
「そのっ、痛くねーか?」
「う……ん、大丈夫っ……なんか、ヘンな感じっ……」
「そっか、じゃあ動くな」
 ゆっくりと、腰を動かしはじめる。
「あっ……ん! んんっ……!」
 喘ぎ声とも吐息ともつかないものが、イレンドの唇から洩れる。
「くっ……ぅ、はぁっ……イレンドの中っ、気持ちよすぎてっ……」
 ぬぷぬぷと肉穴の中を出入りするたびに、この世のものとは思えないような快感がぞくぞくと体の中を駆け回っていく。
「はっ……ぁ、イレンドっ……イレンドぉっ」
 カヴァクは夢中で腰を振り、イレンドの中をかき回した。みっちりと埋まったアヌスが、まるで咥えついてくるようにヒクヒクと収縮する。
「あっ! あぁぅっ! ふぁぁあっ!」
 顔をくしゃくしゃにしながら、イレンドが甘い声をあげる。反り返ったペニスの先端が、身悶えするたびにぷるんぷるんと揺れる。
 カヴァクはそれをぎゅっと握り、腰を使いながらぐりぐりと指先でこね回した。トロトロと溢れたぬるぬるの汁を、くちゅくちゅ音を立てて塗り広げる。
「ひゃあぁぅっ! あっ……あぁあんっ!」
「うおっ! すげ……締め付けっ……」
 イレンドが体を仰け反らせ、びくびくと体を震わせた。カヴァクのものを咥え込んだ尻穴が、きゅんきゅんとそこだけ独立した生き物のようにうねった。
「イレンドの、超カタくなってるっ……」
 ずぷっ、ずぷっと腰を突き上げながら、カヴァクはイレンドのペニスをしごき立てた。
「ひゃぅうっ! だだだ、ダメぇっ、そこっ……弄っちゃ……ぁっ!」
「なんでっ……ダメっ……じゃないだろ、こんなっ……気持ちよさそうにしてるのにっ」
 腰の動きを激しくしながら、カヴァクは言った。言葉と言葉の間に、はぁはぁと荒い呼吸が混じる。
「あっ……は、あっ……んく! だだだ、だって……ひぁっ! きもちっ……よすぎてぇっ」
「いいよ、イクとこ見せてっ、イレンドのびゅくびゅくって出すとこ見せてっ!」
 叫びながら、カヴァクは夢中で腰を叩きつけた。ぱんぱんと肌のぶつかる音が響き、二人の吐息と混ざり合う。
「はぁぁあっ! イッちゃ……うぅうっ! イクっ……ふぁぁああんっ!」
 びくぅん! とイレンドの体が跳ね、どぴゅるるるっ! とペニスの先端から勢いよく白い樹液が迸った。
「あぐっ! あ……出るっ……うぁあああっ!」
 同時に、ずんっ! と根本まで突き入れながら、カヴァクも激しく射精した。
「あっ……あぁああっ……は……ぁ!」
 びくんびくん震えるイレンドの先端から、びゅるるっ、びゅくっ、びゅくっと何度も白い粘液が迸り、自らのへそから胸のあたりまでにたっぷりと降りかかっていく。
「くぅうっ……あぐっ……すげ……」
 カヴァクは奥歯をぎりぎりと噛みしめながら、どくどくとイレンドの中に放出した。これまでに体験したことのないような、体の芯から根こそぎ注ぎ込むような射精だった。目のくらむような快感が体中を駆け巡った。
 すべてを出し尽くすと、腰から下が、どろどろに溶けてなくなってしまったかのようだった。ぐったりとイレンドに覆い被さって、ぎゅっとその体を抱きしめる。
「ふぁぁあんっ……、ひぁ……ぁっ」
 イレンドは放心したように、だらしなく緩みきった顔をして、はぁはぁと射精の余韻に喘いでいた。
「……イレンド、すっげえエロい顔してる。いやぁ、知らなかったなー。イレンドがこんなスケベだったなんて」
「あのっ……カヴァク、その、このこと……みんなには内緒に……」
「言うわけねーだろ。てか、イレンドのこんな可愛いとこ、俺以外の誰にも見せてたまるかっつーの」
 じっと目を見つめながら、真顔で言うカヴァク。
 ぼっ、とイレンドの顔に火が灯る
「……カヴァクって、時々すごい恥ずかしいことを臆面もなく言うよね」
「へへっ、いーじゃん。てなわけで、これは二人だけの秘密な」
 そう言って、ちゅっ、とカヴァクはイレンドの頬に口づけした。
「んっ……」
 イレンドは、くすぐったそうに首をすくめて、カヴァクの胸元に額を押し当てた。その頭を、よしよしとカヴァクが撫でる。
「また、しような」
「……うんっ」


  5/


「なぁカヴァク、最近なんか新しいエロネタねーの?」
 いつもの食事風景。ラウレルがトーストをちびちび千切って口に放り込みながら、カヴァクに訊ねる。
「ん? ああ、いや、特にねーな」
「マジかー、いい加減同じエロ本ばっかり見るのにも飽きてきたんだが」
「しょーがねえだろ、どうしても新しいのが欲しけりゃ、アルマにでも仕入れてきてもらえ」
「バッカ、あいつに頼んだら、どれだけボッタくられるか分かったもんじゃねー」
「だったら我慢しろ。あるいは脳内で頑張れ」
「…………」
 ラウレルが手を止めて、じーっとカヴァクを見つめた。
「なんだよ? 人の顔じろじろと」
「いや、お前、なんか最近淡泊になってねぇ?」
「どういうこった、そりゃあ」
「以前のお前はさぁ、もっとこう、ハングリーっつーか、エロに対してガツガツしたところがあったと思うんだが」
「別に、変わってねーよ」
 そう言って、ずずーっとスープを啜るカヴァク。
「そうかー? なぁ、イレンドはどう思うよ?」
「い、いや、ボクは別にっ……何とも」
 突然自分に話題を振られて、もごもごと口ごもるイレンド。
「つーか、イレンドも謎なんだよな。結局、溜まりゆくリビドーをどこでどうやって発散してんだ?」
「そそそ、それはっ……その」
 イレンドは、かぁっと顔を赤くして俯いた。
「いーじゃねーか。そんなモン、人それぞれだろ」
 そう言いながら、カヴァクは、ちらりとイレンドに視線を向けた。
 テーブルの下、ラウレルからは死角になる場所で、ちょん、とカヴァクの指先がイレンドの手に触れた。
「あ……うん、そ、そうだよねっ」
「なんだそりゃ。つーかカヴァク、なんでそんなテンション低いわけ? お前ってこういうハナシ苦手だったっけ?」
「うるせー。てか、早くメシ食わねーと時間無くなるぞ」
「うお、マジだ。もうこんな時間かよ!」
 驚いた声をあげ、慌てて残りのトーストにかじりつくラウレル。その様子を見て、やれやれ、とカヴァクは大きく息を吐いた。
「俺らも早くメシ食って行こうぜ。な、イレンド」
「うんっ」
 互いに頷きながら、二人はこっそりと、テーブルの下で手を繋いだ。
 ぎゅっ。


 END