SeXRET MESSAGE

「おはようございます」
 芸能界の活動時間は、普通の仕事とは異なっていることが多い。だから挨拶はいつもおはようございますなのだと、島村卯月はプロデューサーに教わった。
「おはよう、卯月」
「おっはよー」
「おはようございます、卯月ちゃん」
 卯月が学校を終えて事務所に顔を出すと、先に来ていたアイドル仲間やプロデューサーが、口々におはようの挨拶を返してきた。
「ええと、卯月の今日の予定は……っと」
 担当プロデューサーが、卯月のスケジュールを確認する。
「今日は確か、ダンスのレッスンだったと思います」
「ああ、そうだ。ニュージェネレーションズでユニット曲のダンスレッスンだな。他の二人はもうレッスン室にいると思うから、卯月も着替えて加わってくれ」
「はいっ……あれ?」
 頷いて更衣室に向かおうとしたところで、卯月はふと、プロデューサーのデスクに一輪の花が活けてあることに気がついた。
 それは、白い百合の花だった。
 デスクの隅に透明なガラスでできた一輪挿しが置いてあり、花はそこに活けてある。
「あの、そのお花は?」
「ああ、これか。さっき凛が持ってきてくれたんだよ。事務所に飾ってくれってさ」
「凛ちゃんが……」
 卯月はしばらくの間、それをじっと見つめていた。
 魅入られたように、身じろぎひとつしない。
「卯月? どうかしたのか」
 さすがに妙だと思ったのか、プロデューサーが声をかけてきた。
「あ……す、すみませんっ」
 卯月は途端に、金縛りが解けかのように、慌ててぺこりと頭を下げた。
「じゃあ、行ってきますね」
「? お、おう」
 狐につままれたような表情のプロデューサーを残して、卯月はぱたぱたと部屋を出ていった。


「んっ……ふ……」
「んむっ……ちゅくっ……はぁ」
 レッスン室に繋がる更衣室に、くぐもった吐息と微かな水音が響く。
 ふたりの半裸の少女が、互いの体を抱きしめ合いながら、唇を重ねていた。
 たっぷりとした口づけだった。ついばむように唇を吸いあい、互いの舌を絡ませてなぞりあげる。
 ぴちゃぴちゃと唾液が混ざり合い、口元はどちらのものとも知れない滴りに濡れ光っている。
 島村卯月と、渋谷凛だった。
「ぷはっ……ちょっと、卯月、ここじゃすぐ人来ちゃうって」
「でも、おねだりしてきたのは凛ちゃんからでしょう?」
「そ、それは……」
 かあっと頬を赤らめた凛を、卯月がにこにこと見つめる。
 おねだり――それは、卯月と凛のふたりだけの秘密の暗号。
 して欲しくなった時は、事務所に飾る花を持ってくること――、そういう約束なのだ。
「私、不安だったんですよ? 凛ちゃん、なかなかお花持ってきてくれないから、約束忘れちゃってるんじゃないかって心配してて」
「わ、忘れるわけないでしょ。ただ……」
「ただ?」
「やっぱり、恥ずかしいじゃん」
 目をそらしながらそう小声で呟いて、凛はうつむいてしまった。
「じゃあ、今日はどうして持ってくる気になったんですか?」
 笑顔を浮かべながら、楽しそうに卯月が訊ねる。
「それは……その」
 ごにょごにょと言葉を濁す凛を、卯月はそっと抱きしめた。
「我慢できなくなったんだよね、凛ちゃん」
「……っ」
 凛は真っ赤だった顔をさらに赤くして、それを隠すように卯月の胸に顔を埋めた。
 ぽんぽん、と卯月はその頭を撫でて、そっと耳元にささやきかけた。
「じゃあ、今日は思いっきりしてあげますね」
 その言葉とともに、卯月の指先が、つうっと凛の背中をなぞった。
 下着姿だった凛の、その素肌に沿って、卯月の指が滑るように動く。
 凛の肉体の輪郭を、指先で確かめようとするかのようだった。
「ひゃっ……!」
 くすぐったいような、もどかしいような感触に、凛の体がぴくんと震える。
 卯月の手が、凛の内ももに触れた。
「んんっ……」
 脚を閉じ、もじもじと膝をこすり合わせようとする凛に、しかし卯月の指先はさらに奥へと潜り込んでゆく。
「凛ちゃんは、我慢してる間は自分でしてたの?」
「な、何を……」
「ほら、ここを、こんな風に――」
 下着の布越しに、卯月の指の腹が、凛の秘所を撫でた。
「んっ! は……ぁっ」
 ぞくんっ、と凛の体が震えた。背筋がのけぞり、顎があがる。無防備にさらけだされた喉元に、卯月がそっと口づけをした。
 ちゅっ、ちゅっとついばむように首筋を吸いながら、うなじから耳元へとキスする場所を移動してゆく。
「私、知ってるんですよ? 凛ちゃんがどういう風にオナニーするのか。前に、私の前でしてみせてくれましたよね」
「それはっ……卯月が見たいって言うから……」
「あの時の凛ちゃん、すっごく気持ちよさそうだったなぁ」
 その時の光景を思い出しているのか、卯月はうっとりと目を細めた。
 しかし指先の動きは止まることなく、下着の上から凛の陰唇の形をなぞるように何度も往復する。
「あっ……! は……ぁ、ふぁあっ……」
 凛の呼吸が乱れ、吐息に微かな甘い響きが混ざる。
「今日は自分でしなくても大丈夫ですよ、私がしてあげますからね」
「そ、そんなの……いらな……んっ!」
 言いかけた言葉は、卯月の唇にふさがれた。柔らかな舌がもぐりこんできて、凛の思考と口内をかきまわす。
「ぁんむ……んふ……ちゅくっ、くちゅ……ちゅぱっ」
「んんぅ……ぁ……れるっ……ちゅぷ……」
 ふたつの舌が、それ自体が意思を持った生き物であるかのように絡み合い、お互いを擦れ合わせる。
 凛の唇からあふれてこぼれた唾液を、卯月はそれすらも愛おしいもののように舐めあげ、自らの内に嚥下した。
「ひゃっ……ぁん!」
 凛が体を震わせて小さく声を漏らした。
 卯月の指先が、下着の中に潜り込み、凛の肉の合わせ目を擦り上げたのだ。
「わぁ、ぬるぬるじゃないですか、凛ちゃん」
 嬉しそうに卯月がそこを何度もなぞる。強く指先が押し当てられ、先端がつぷりと肉襞の中に埋没した。
「んんっ……ぁ! ダメっ、卯月……」
「何がダメなんですか? 凛ちゃんのここは、すごく悦んでますよ」
 ほら、と卯月が凛の中をなでる。電流のように甘い痺れが体の中を駆け抜け、凛は思わず全身をこわばらせた。
「ふふっ。きゅんきゅんって吸い付いてくるみたいです」
 ぬるぬると卯月の指が動き、凛の中をかきまわしていく。
 凛の内側の、どこをどう触れれば凛がどんな反応をするのか、それを知り尽くした動きだった。
「あっ……ぁ! ひぁっ……卯月っ……うづきぃ……」
 凛は自分の顔を腕で覆い隠し、ひたすらに卯月の名前を呼んだ。卯月に止めてほしいのか、もっと続けてほしいのか、自分でもわからなくなっていた。
「可愛いですよ、凛ちゃん。ほら、もっとよく顔を見せて」
「ダメっ……それは……」
 いやいやをするように、凛が首を振る。
「どうしてですか? 感じてる凛ちゃん、こんなに可愛いのに」
 そんな凛を、卯月は子供をあやすようになだめて、顔を隠していた手を下ろさせた。
「いやっ……見ないで、卯月」
 涙でくしゃくしゃになった凛の顔を見て、卯月はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫、凛ちゃんのそういう顔、大好きですよ」
「う……づき」
 ふたりの視線が絡み合い、引き合うように顔が近づいた。
 唇が触れた。
 貪るように、夢中でお互いの唇を吸い合った。
「んっ……んふ、ちゅっ……ちゅく、ぁ……卯月っ……」
「凛ちゃん……んんっ、ちゅぱ……くちゅくちゅっ、れる……凛ちゃんっ」
 ずれて外れかけていたブラジャーをもどかしそうに体から引き剥がし、あらわになった乳房を互いに重ね合わせる。
 濃桃色の乳首はぷっくりと充血し、柔らかな膨らみの中心にあってそこだけが硬く尖っていた。
「あっ……ぁ! はぁぁんっ……んんぁ、あっ……!」
「ひゃぅ……んっ! あはぁ……ぁ……あんっ!」
 互いの乳首を擦れ合わせ、耳元で甘い喘ぎを響かせ合う。凛にはもう、自らの耳に聞こえてくるその淫声が、自分の唇から零れているのか、それとも卯月が発しているのかがわからなかった。
 ぐちゃぐちゃと淫猥な音を立てて、卯月が凛を責め立てる。親指の腹が敏感な肉の芽を捉え、押しつぶすように動いた。
「ああぁぁひ……んっ! ダメっ……卯月っ……あ……ぁ!」
「気持ちいいんですね、凛ちゃん。ここ弱いですもんね」
「うんっ……いいっ、気持ちいいっ……ぁ……あぁんはっ……ぅ」
「ふふ。素直になった凛ちゃんは、もっと可愛いです」
 卯月は凛の体に覆いかぶさり、乳房の先端を口に含んだ。
「ちゅっ、んんふ……ちゅぱっ、はむ……んふ」
 凛の乳首を吸い上げて、唇に挟んで舌でなぶる。
「あぁぁっ……ん! ふぁぁぅ……んっ……ひぅ!」
 凛は体を弓のように仰け反らせて、甘い悲鳴をあげた。卯月の口と手で、上下から送り込まれる快楽に、頭の中が真っ白に塗りつぶされていく。「ぷはっ……んっ、凛ちゃん、腰が動いてますよ? イキそうなんですね」
「うんっ、卯月っ……イッちゃいそう……イキそうっ……あぁぁんっ!」
「いいですよ、イッて……んっ……はむ、ちゅっ……じゅるるっ」
「うんっ、イク、イクぁぁんひっ……んぁぅ! あっ……あっぁあんんきゅぅうんひぅ!」
 ひときわ高い声が凛の唇から迸った。全身がびくびくとわななき、ぴんと伸ばした手足が宙を掴もうとするように動いた。卯月の指を深く咥え込んだ膣肉がきゅうきゅうと収縮し、たっぷりと溢れた愛液は太ももの内側を濡らして床まで滴り落ちた。
「凛ちゃん、すっごく気持ちよさそう……」
 絶頂を長引かせるように内部をなぞりながら、卯月はまるで自らも達したかのようにうっとりと恍惚の表情を浮かべる。
 凛はぼんやりと甘い痺れに覆われたまま、卯月のその顔を見惚れたように眺めていた。


「あら、今日はガーベラですか」
 千川ちひろは事務所に来てすぐ、デスクの上に活けてある花に目を留めた。
「綺麗ですねえ。やっぱり、お花があると場が華やぎます」
「ですね。アイドルの皆にも好評ですよ」
 デスクの向こう側から、プロデューサーが言った。
「これも渋谷さんが?」
 訊ねながらちひろは少し背をかがめ、花の匂いをかいだ。微かな甘い香りが鼻をくすぐる。
「ええ、そうです」
 プロデューサーは頷いてから、周囲を見回して声を落とした。
「でも実家が生花店とはいえ、こう頻繁では負担になっていないかちょっと心配で。どうですか、ちひろさん。事務所の備品ってことで、いくらか凛にお礼できないでしょうか」
 ちひろは少し考え込んでから、
「わかりました。じゃあ、経費から出せないか検討してみますね」
 そう答えた。
「よろしくお願いします、ちひろさん」
 プロデューサーがほっとした表情を見せる。
「いえいえ。私もいつも楽しみにしてるんですよ、今日は何のお花かなって。だからこれからもぜひ続けてほしいです」
「はは。もう日替わりですもんね」
 そんなふたりの会話を、通りがかったひとりのアイドルが聞きつけたようだった。
「今の話って、凛ちゃんのお花のことですか?」
「ええ。まるで日替わりで、毎日楽しみねって。卯月ちゃんはどう?」
 ちひろがそう言うと、そのアイドル――島村卯月は、ぱっと晴れやかな笑顔を見せた。
「はいっ、もちろん私も、毎日楽しみです!」


  END.